「ボクはもうケーキを買ってもらえることはなかったし、プレゼントも届かなかった。なのに周りはケーキは何味が好きとか、プレゼントは何をもらったとか、そんな話ばかり。頭にきたから、小学校とついで中学校も飛び級で卒業してやったよ」
腹立たしげに、得意げに、そして寂しげに。最高傑作たちとの雑談に興じる最中、ヘドはそう語った。
やがて月日は流れ、かの日まであと僅かという時期に差し掛かる。それを体現するカレンダーや窓の外の景色に、あるときは苛立ちを含んだ鋭い視線を向け、あるときは深い溜息をついた。
そんな主のために、自分は何かをすべきか否か。イブと呼ばれる日を迎えてもなお、最高傑作の一角——ガンマ1号は考えあぐねていた。
行事への心証は人それぞれ、向き合い方は個々人の自由。そして、ヘドがその日に寄せる苦い思いは、両親を喪ったことに起因するもの。両親——大切な誰かの存在を、また別の誰かが代わることはできない以上、その胸中の穴を塞ぐこともまた不可能だと理解していた。傷にそっとでも触れるような真似はせず、普段通りの一日を過ごしてもらうことも、ヘドのために取れる選択肢の一つ。
だが、できることならば。この日を耐え忍ぶより、幸せを覚えてほしい。ヘドが十年以上背負うことを余儀なくされた悲しみ全てが拭われることが叶わずとも、喜びを、ほんの少しだけでも手にしてほしい。
確かに存在したその思いは、何もしないという最善と相反する。それが1号を大いに悩ませた。
『クリスマスって、みんなが好きな行事なのかと勝手に思ってたけど……ヘド博士が例外だったとは。……まだ大分先の話だけど、ボクたちで何とかしてさ、博士にとってもちょっとはいい一日にしてあげられたらいいな』
普段ならば「最善」以外を選ぶことなどない。そのガンマ1号が迷うことになっていたのは、かつて共にヘドの昔語りを聞いた、今この場にはいない二号機の言葉があったからだ。
——そして、結局。まるで生前に交わしたやり取りのように、後続機は二者択一を迫られた先行機の背を押し切った。
ガンマ1号は滅多に使わない財布を持ち出し、ヘドが欲しがった新作のゲームと、彼好みのホールケーキを購入した。ただでさえ年内最大の繁盛期である上に、推奨される予約も済ませていない。長蛇の列の一部となることは避けられなかったが、それも厭わなかった。
その間にも、迷いはあった。緊張は使命感に勝っていた。引き返す、という選択肢は何度も浮かんだ。それでも、ヘドの居室へと足を進めた。
亡き兄弟機の願いを、果たすためにも。
「……差し出がましいことは承知ですが……。これを、ヘド博士に」
彼を出迎えたヘドにとって、その手にあった白い箱も、ラッピングが施された小箱も、ひどく懐かしいもの。そのため理解には少しだけ時間を要した。
それを済ませた瞬間、目を見開き声を上げる。この季節の子供たちと同じ、輝かんばかりの笑顔を1号へと向けたのだった。