謎めいた同型機(1/3ページ)

以下の要素が含まれます。

  • ガンマのRR軍内での過ごし方の捏造
  • ガンマの機能等に関する捏造

 

「なあ1号! 四つ葉のクローバー探しに行かないか?」
「……はぁ……?」

 2号の突拍子もない勧誘は今に始まったことではない。一日数回は持ちかけられる、いつものことだ。
 例えば、「決めポーズの候補を迷っているから意見がほしい」とか、「カッコいいポーズを考えたから見てくれ」というもの。なぜそのような発想をするのだろう。博士がわたしに、交戦の最中はそのような動作をするようにとお求めになったことはない。博士からの命令に含まれていない以上、2号が試みる、意識的にポーズを取るという行為は不要なものだ。——そう話して、断るだけだった。
 ところが、「じゃあこれだけでも!」とやや強引に披露されたものが、あまりにも——あまりにも、それはないだろうという出来で。結局、2号の思考錯誤に付き合うことを決めた。わたしは依然として自分のポーズついて意識はしていない。必要ないという考えも変わっていない。それでも、2号のセンスについて明確に疑問を覚えることはできた。2号がおかしなポーズを独断で採用し、それを披露してしまう——という事態は、ガンマの名誉とヘド博士のために、何としてでも阻止しなければならない。そんな使命感が生じていた。
 「見回りに行くなら一緒に行こう」と誘われたこともあった。珍しく業務に取り組む気になったかと感心し、承諾したのだが、2号は終始わたしの隣、もしくは背後でひたすら喋り続けていて、周辺を警戒している素振りは微塵もなかった。そもそも軍の最高戦力二体が揃って同じ区域の見回りをしているというのはおかしくないか、一体ずつ別々の場所にあたる方が効率の面においても妥当だ。——2号本人にそう尋ねたところ、彼は正式に任を与えられたわけではなく、ただわたしについて来ただけだったということが分かった。甚だ謎の行動だ、一体何のためにそんなことを。
 基地の中を散歩してみたい、創られたばかりで分からないから、各所のシステムについて確認させてほしい、と言われてふたりであちこち歩いたこともあった。だが、基地の仕様についての知識は既に博士からデータとして受け取っていたはず。改めて確認するというのはいい心がけかもしれないが、あの楽観的すぎる2号がわざわざそんな行動を取るだろうか。道中妙に楽しそうにしていた様子を思い返せば、彼の本当の目的は「散歩」の方だったのではないかと勘繰ってしまう。

 このように、2号の行動や要求は大半が無駄と不必要で構成されているものだった。

「……なぜだ?」
「なぜ、って……。あ、もしかして知らない? 四つ葉のクローバーを見つけると、幸せになれるらしいぞ」
「知っている。シャジクソウ属の葉……。非常に有名かつ非現実的な民間伝承だ」
「何だ知ってたのか、それなら、話は早いな! 群生地はもう見つけてあるから、早速行こうぜ!」
「待て」すぐさま腕を掴まれ引かれそうになり、咄嗟に踏み止まり振り払った。「行くとも欲しいとも言っていない。そして非現実的だとも言った」
「まあまあ、たまにはいいだろ」
「幸せになりたいとも思っていない」
「えぇー……」

 無駄と不必要は2号の常だが、今日の要求は群を抜いてその傾向が強い。決めポーズはガンマの威信のため。見回りへの無意味な同行も、「散歩」も、もしかすると2号なりに真面目に活動しようとした結果という可能性はある。——しかし今回の件に関しては、ガンマの名声も責務も、少しは関係していると言い張ることさえ難しい。2号の心算への疑問が、いつも以上に募っていく。
 なぜ。どうして、そんなことが——必要のないことが言えるのか。

「そんな寂しいこと言わなくても……」
「わたしはヘド博士の命令を遂行するのみだ。今以上など望んだところで意味はない」
「なら……ボクが1号のことをもっと幸せにしたいから! ……って理由じゃダメか?」
「……百歩ほど譲っていいとしても。それは四つ葉のクローバーがなければいけないことなのか?」
「いや、なくても幸せにしてみせる! とは思ってるけど。でも言ったろ、たまにはって。外はいい天気だし、このまま活動終了して引き籠っちゃうのは勿体ないぞ。ほらほら!」

 その日に請け負った業務やテストを終えれば、専用のエネルギー補給機に身を収めて待機状態に戻る。たとえ、まだ日が高かったとしても。「このまま活動終了して引き籠っちゃうのは勿体ない」と言った2号は、わたしが明日の朝を迎えるまであの箱の中で過ごすつもりだということを——わたしが、もう既にこの日の雑務を終えているということを知っている。
 よくもまあ、そこまで把握したものだ。群生地も既に見つけているとも言っていた。普段はああも浅薄であるのに、なぜ今はそこまで綿密な下調べができるのか。感服と訝しみを同時に覚えるという奇妙な状態のまま、気付けば2号に背を押されて廊下を歩いていた。