謎めいた同型機(3/3ページ)

 

「しかし、本当に良かったのか? おまえは……これが欲しかったわけではないのか?」
「まあ……。……あっ! じゃあ1号、こっち向いてくれ」
「?」
「そして、クローバーはもっと高く持ってもらえると……。そうそう、そのまま! ……よし! バッチリ撮れた!」

 どうやら、わたしごと四つ葉をピクチャに収めたらしい。
 確かに、有効な保存手段だ。2号の手元には現物が残らない、ということを除けば。

「……案外、無欲なのか?」
「そうでもないさ。今日のところは、ボクはもう願いを叶えてシアワセになれた。だから、それは1号のものでいい」
「願い?」
「おまえと一緒に四つ葉のクローバーを探せたし、見つけたものもおまえに渡せた!」

 見つけることではなく、探すことが目的だったのか。

『……直接行って探すつもりなのか? ここからでもズームをかければ探せるだろう』
『分かってないなあ、それじゃつまらないだろ。やっぱり、その場に行かなきゃな』

『おまえが最初に指定した場所の方が、発見できる可能性は高そうだ』
『ふ~ん……。……でも、いいよ。こっちで探そう。1号とふたりで探したいからさ』

 合点がいった。何度も非効率的な手段を選んでいたように見受けられたのは、探すという行為自体に重きを置いていたせいか。

「…………は?」

 だが——わたしと、と言ったか? 探すことそのものではなく、まさか——わたしとそれをすることが、2号の目的だったと言うのか? そうして見つけたものさえも、わたしにやるつもりで。

「——どうしてだ、2号」

 どうして、そこまでオレを気にかけた?

「……どうして、か。……実はさ、ボクも1号に聞きたかったんだ」
「……?」
「どうして今日は、ボクに付き合ってくれたんだ? いつもなら、任務や闘いに全く関係ないことでボクが誘っても断ってたじゃないか」
「————な」

 確かに、そうだ。オレは日が暮れるまで、こんなことを。
 どう足掻こうとも戯れ以上の理由をつけられない行いだと、誘いの言葉をかけられたときから感じていた、分かっていた。 断るタイミングも、2号を連れ戻すタイミングも、いくらでもあった。それでも、2号とずっと、不必要な探し物をして。この、オレが。不必要なことを。

「……帰る」
「え」
「もう帰る」
「えー。活動終了しなきゃいけない時間まではまだ余裕あるだろ。折角だし、もうちょっとここで過ごすのも……」
「イヤだ。もう帰る」

 立ち上がって赤いマントを翻してみせたところで、今までヒーローとしての行いをしていたわけではなかった、ということは覆せない。だが、右手に握ったクローバーを手放す気にはなれなかったから、そのまま基地へと向かって振り返らずに早足で歩くことしかできない。後ろを気にせずとも、同型機はわたしを追って速度を出し、すぐに肩を並べてしまうのだが。

「1号~。そんなに照れなくてもいいじゃないか」
「照れてない!」

 照れてなどいない。顔部分の温度が原因不明の上昇を起こしていることは確かだが、照れなどではない。そのはず、だ。大体、なぜここで照れなければいけないんだ。

「別に、からかうつもりなんてなかったんだけど……! 理由だってさあ、そんなに深く考え込むほどのものじゃないだろ?」
「わたしは人造人間だ。明確な理由なしに行動するわけがない」
「そうかなあ……。ボクと過ごすのに理由いる? それに、クローバー探すの、1号だって楽しかったろ? だったらいいじゃん」
「た……楽しい、など……そんなことで……」

 ああ、もう、何も分からない。2号のことも、自分のことさえも! ——だが、一つだけ。分かることがあるとすれば。
 ヘド博士の命令も、ガンマとしての使命も関係のない誘いを受け入れて、普段の2号のように、ガンマとして不要な行為に興じていた理由など。——2号に絆されていたから、以外にない。

 ——楽しかった。2号の指摘は、当たっているのかもしれない。あまりにも、信じ難い感情だが。