「申し訳ありません、ヘド博士。既に明日には、有給休暇の取得を申請しておりまして」
「そうなのか? じゃあしょうがないか」
カプセルコーポレーションのガードマンという人間同様の職に就いていても、人間が代わることはできないわたしは特殊な立ち位置にあった。それでも、こうして従業員としての権利を行使することも、それを理由に仕事を断ることも許されている。つくづく、恵まれていると感じる。
その仕事が博士から仰せつかった研究の手伝いであるというのは、かなり心苦しいが。だが、こればかりは譲れない。一年に一度、彼がその姿を見せに来てくれる、この日だけは。
「けど、珍しいな。おまえが自分から休みを取るなんて」
「そうでしょうか……。去年も、一昨年も申請していますが」
「年単位で前じゃないか! ……ん? 去年、一昨年……。……もしかして、毎年この日に休んでるのか?」
「はい」
博士が仰った通り、わたしは毎年、決まった日付——七月七日に必ず休暇を求めるようになった。そうしなければならない用事ができた初回は元々運良く休日だったのだが、翌年以降は自力で休みにする必要が生じた。
来年も、再来年も、わたしは決まってこの日を休日にするのだろう。
「七夕に思い入れとかあるのか? 去年……じゃないな。三年前にはギリギリで短冊を提出してたくらいだったのに」
三年前——用事ができた初回の日。結ぼうとした短冊を一度撤回した後、夕方までその存在を失念してしまっていた。急ぎ部屋に戻って予備の短冊に博士の研究の進展を願ったため、何とか締切を守ることはできたのだが。
撤回した方の短冊は、彼の手に渡ったままだ。
「……はい。わたしにとって、特別な日です。大切なひとと、会えるので」
「…………え」
「——あ」
しまった。理由まで伝えなくても良かったかもしれない。これでは、まるで——自分から惚気話をしてしまったみたいだ。
顔が熱い。博士と上手く目を合わせられない。もうすぐ会える彼であれば、こんなとき上手く誤魔化せるのだろうか。
「で……っでは、失礼いたします、ヘド博士!」
「あ……ああ!」
わたしは誤魔化せずに、足早にラボを退室することしかできなかった。
ヘド博士もわたしも、明らかな動揺を苦し紛れに装った平静で覆い隠そうとしていた。
「~~~~~~~~ッ!」
いくら唇を噛んで床を睨み付けたところで、顔に灯る熱は治まってくれない。時間をかけずともどうにか姿勢を正して真っ直ぐに歩き出すことはできたが、胸中では完全に悶絶していた。
ヘド博士の前で口を滑らせてしまった原因など、一つしかない。——浮かれていたせいだ。
しっかりしなければ。どれほど明日を待ち望んでいようと、今日は。今日が終わるまでは、冷静沈着かつ完全無欠のガンマでいなければ。あらゆる使命をほんの少しだけ忘れて、ただ愛する同型機に焦がれるオレになれるのは、日付が変わってからだ。こんな調子では、あいつにも笑われてしまいかねない。——それとも、オレが明日を、年に一度の機会を心待ちにしていたと知れば、あいつは喜んでくれるだろうか?
(……2号)
ああ、やはり浮かれている。彼のことを考えれば、身を焼くような羞恥よりも、ただ輝かしい期待が遥かに上回ってしまう。
——楽しみだ。オレの星は、明日はどこへ連れ出してくれるのだろう。
この首を優しく包む青色を、そっと撫でた。