ふたりだけの色(1/3ページ)

以下の要素が含まれます。

▷ゼノバース2正義のヒーロー編パックエクストラミッションシナリオ時空(セルマックス戦時に特攻を終えた2号がマントではなく光線銃だけを遺してすぐに死亡し、1号がそれを拾い上げて青色の光線を放ち、セルマックスの頭部を撃ち抜いて倒した世界線だということを把握していただければゲームの方未プレイの方でもご覧いただけるかと思います)
▷ガンマのRR軍内での過ごし方の捏造
▷ガンマの光線銃の機能等に関する捏造
▷ガンマ2号のポーズや仕草に関する捏造

 

「1号! それ貸してよ」

 ガンマ二体による野外での戦闘訓練が終了の時刻を迎えると同時に、距離を取って相対していた2号が駆け寄ってくる。
 開口一番に告げることが、新たに獲得した戦闘データの確認でもなく、先ほどの手合わせの反省でもなく、何やら意図の掴めない要望だというのは、何とも2号らしい。

「何だ?」

 「それ」が指すものは、わたしが右手に握ったままの、ガンマ1号の光線銃だ。疑問を呈しつつ2号に差し出す。訝しむわたしとは対照的に、2号は——いつものことではあるが——きらきらという擬音の似合う表情を浮かべ、喜々として光線銃を受け取った。
 わたしの光線銃への何らかの期待に溢れた様子を見て、少し不安になる。コイツは戦闘データのアップデートをちゃんと済ませているのだろうか?

「ありがとう! それじゃあ、見てろよ——……!」
「…………」

 2号のものとわたしのもの、二色の光線銃を2号はそれぞれ両手で構える。
 そしてその引き金に添えた人差し指で銃身を支えながら、二つ同時に回し始めた。縦に横にと向きを変え、時折両腕を交差させながらパフォーマンスを続ける。そんな動きを何度か繰り返した末に、銃を掲げてフィニッシュを決める。爆発と効果音のエフェクトを描いたホログラムが背後を飾った。「BOKAAAM!」という文字通りの音が鳴る。

「……どうだ!」
「…………」

 毎度のことだが、銃を巧みに捌く指先の器用さには感心している。そのアイデア自体も良いと思ったと、以前見せられたときに伝えてある。それを受けてかどうかは分からないが、2号はよく光線銃を回すようになった。心なしか、また一段と上達したような気もする。——が、今見せられた演出で良いところを挙げるとしたらそれくらいだ。よって。

「ナシだ。返せ」
「ま、まだ待って! 他にも色々考えたんだ、これとか! ……それとも、これなら!」

 一つ目とはパターンを変えた実演が開始される。ジャグリングのような動きも取り入れたトリッキーなものだ。——動作自体は粗もなく、躍動感があって見応えがある。だが、所々に首を傾げたくなる要素が盛り込まれ、それが積み重なって全体への奇妙な違和感となる。端的に言ってしまえば、どこか抜けていて変だ。2号のポーズは、いつも大体そうだった。

(こんなポーズに……わたしの光線銃が……)

 2号に付き合わされる愛銃を不憫にさえ思ってしまうが、2号に貸し出したのはわたしだ。そのわたしが2号のこうした相談には付き合わなければと決めている以上、愛銃にもしばらくこの後継機の力になってもらおう。これも全て、2号がカッコよくないポーズをしてしまうことを防ぐために大事な時間なのだと信じて。
 2号が動き、その都度わたしが首を横に振る。延々と繰り返されたその応酬は、さながら攻防戦のようでもあった。
 

「……ガクッ。これもダメかー……」

 何回戦目かを終えたとき、2号は項垂れて静止した。——勝負あったようだ。

「もう終わりか?」
「い……いや、まだだ! はッ!」
「……左手の動きがおかしいと思う。……左手の動きさえ改善すればいいというわけでもなさそうだが……」
「……うう。今日も1号は手厳しいな」

 こればかりは本当に仕方がない。あまりにも奔放なセンスを全て許容してしまうと、ガンマの名誉——ひいてはヘド博士の名誉をも脅かしかねないのだ。
 わたし自身はポーズが必要だとも思っていないし、2号のように自分で意識して取ることもない。だがスーパーヒーローたる者として、誇りあるその立場に相応しいものであるかどうかの判断はできるつもりだ。特に、2号の見せてくるそれは——極端だから。

「まあ、目標は高ければ高いほど燃えるからな! ボクの最高のセンスをもってしても、なかなか敵わない1号に認められてこそ意味があるんだ! 今回はダメだったかもしれないけど、次は絶対『カッコいい』って言わせてみせるぜ!」

 当然の評価とはいえほぼ毎回わたしに却下されているにもかかわらず、諦めることなく溌剌と挑んでくるその不屈の明るさは、純粋に眩しく感じる。きっと、そんな2号だからこそ、この不思議な競り合いは続いているのだろう。
 だが、2号のセンスは本当に最高なのだろうか? その認識の時点でズレを感じてしまうが——その根源的な指摘よりも先にできる話がある。

「……光線銃を今のように扱うなら、次はないぞ」
「えっ、何で」
「実戦において、そんな機会は起こらないからだ。どのような状況で、おまえがわたしの光線銃を使うことになる?」
「そ…………。…………それは、その……」

 逸らされた視線はわざとらしい。やはりと言うべきか、そこまでは想定していなかったようだ。

「……ボクたちが実際にやるかどうかはともかくとして、さ! 二丁の銃っていうのもけっこういいと思わないか?」

 すぐに開き直り、両手の二丁を構えて陽気に笑う。この切り替えの早さはある意味彼の長所かもしれない。

「……否定はしない。人間であれば扱いの難度は上がり、一発一発の射撃制度の低下も懸念される形態だが、わたしたちならば容易に克服できる。連射性や弾数を高めることができるし、それから一方が故障したり、あるいは敵に弾き飛ばされるといった事態にも備えられる」

「だろ!?」2号がその目を輝かせる。わたしの肯定はお気に召したらしい。「じゃあ、実戦ではやらないとしても、二丁の光線銃でポーズを決める……って案自体は、的外れってわけでもなかったり……!?」
「そう……まあ、そうだな……」

 銃火器の精度がまだ不十分な時代では、人間たちは二丁拳銃を用いることの方が多かったらしい。それから、ヘド博士の生活スペースと隣接したラボに出入りすると自然と目に入る知識だが、フィクションの世界でも双銃を武器とする戦士は少なくない。二つの銃を扱うことのビジュアル的な価値は、十分に保証されていると言えるだろう。
 しかし、ここでそれを認めてしまえば、先ほどの提案全てが棄却された原因は、ガンマとしての実現不可能性と、そして2号本人のセンスによるところが大きいと暗に伝えてしまうことになる。2号はそれでいいのだろうか。疑問によって曖昧な返事をしてしまったが、同意が得られた2号は嬉しそうだ。そこまで考えていないのかもしれない。

「……何にせよ、わたしたちにはあまり縁のない議論だ。ガンマの光線銃は一つずつ。オリジナルがそうであって、そしてヘド博士が彼を再現することを目指したのだから」
「ああ。何も、ないものねだりをする気はないさ。オリジナル……って言われてもピンと来ないけど、1号が一つでいいなら、ボクも同じでいい」

 そう言いつつ、2号は握った二つの光線銃に視線を落とす。まるで、宝物に見惚れているかのような視線を。一つでいいと言ったばかりであるというのに、自分にとっての「一つ」ではなく、二つともを眺めている。

「……そんなに気に入ったのか?」
「だってほら、見ろよ! ボクにヤツの目は赤色だけど、1号のヤツは青色の目だ!」
「……あ……」

 2号が持つ銃の先端——鋭い四つの瞳をを交互に見比べる。——確かに、2号の言う通りだ。
 初めて、知った。わたしに与えられた色の中に別の色が備わっていることも、対象的な青色を持つ2号のものにもまた、赤色が宿っていることも。2号に言われるまで全く気が付かなかった。きっと、今まで、気にも留めようとしてこなかった。

「ここだけはボクたちのお互いの色が入ってて、なんかいいなって思ったんだ」
「————」

 てっきり、2号が気に入ったものは双銃のスタイルだとばかり思っていた。ガンマとしての最適を理解はしていても、それとは別に、一度生じた憧れは容易に拭えないのだろうと。少なくとも、初めは——光線銃を二つに増やしてのポーズを取っていたときは、実際に彼の関心は双銃の方に向いていたはずだ。
 だが披露と評価のやり取りをひとしきり終えた後、先ほど見せた愛おしげな眼差しは、あくまで自分と、そしてわたしの——わたしたちふたりの光線銃に向けられたもの、だったのか。それぞれに互いの色が入っていることを喜んだらしいのだから、手にしていたのが他の銃であったり、どちらか一方の光線銃が二丁用意されていた場合では、あの目が引き出されることはなかったのかもしれない。
 嬉しい、のか? 自分のものではない色が——互いの色が、己の武器に湛えられていることが。2号も——オレも? なぜ?
 この意匠に意味があるとは限らない。オリジナルが携えていた光線銃も青い目をしていたのだとしたら、それが再現されたに過ぎないからだ。だというのに、それさえも些細な問題と思い始めてしまっている。オリジナルのもののデザインを、真面目に思い出そうとしていない自分がいる。もし、彼の光線銃も青い目をしていたとしても——オレの方が、恵まれているような気分になる。赤色の目を、返してくれるものがあるから、か? よく、分からない。——今後製造される後続機の光線銃は、どんな色になるのだろうか。叶うことなら、青でも、赤でもなければいい——。

「…………!」

 何やらよく分からない考えに没頭して、惚けていたことに気が付いた。だが幸いにも、2号も未だ光線銃を嬉しそうにまじまじと眺めている。ほっとした。これなら、わたしの数秒前の異常も見られずに済んでいるだろう。——心がくすぐられるような感覚は、まだ残っているが。
 自分自身を確かめるように、この胸に手のひらを重ねても、その感覚と、そして感情の正体は掴めない。オレは——2号を、どう思っているのだろう。2号と、どんな関係でありたいのだろう。

「それにしても、ほんとそっくりだよな」わたしの思惟など知る由もない2号が、二つの光線銃に感心する。「もちろん色と数字は違うけど、それ以外は見た目も大きさも一緒だ。やろうと思えば、自分のじゃない方でも使えたりするのかな」
「そのはずだ。規格と仕様が同一だからな。手で持つか、もしくはホルスターに収めれば、わたしたち本体のシステムとの接続も自動で設定される」

 右の手を差し出せば、その意図は正しく伝わった。2号はわたしのものを返却するのではなく、その眼差しに込めた溢れんばかりの期待とともに、青色の光線銃を貸してくれた。
 グリップを握って三秒ほど経過してから銃尾のつまみを回せば、視界左下に表示されている数種類の弾が動き、銃身に装填されるものが変わっていく。推測通り、先にわたしに紐付けられていた一号機用の銃よりも、今握っているこちらが優先して連動されたようだ。——両手で一つずつ光線銃を握って操作しようとすればどうなるのだろうか? 挙動がおかしくなりそうだ。2号のやったことが実戦的な扱いではなく、ただポーズに用いる程度のもので良かった。
 一直線に光線を放つ最もシンプルな弾に設定を戻し、威力も絞り、丁度良い標的と見なした遠方に積まれた岩の一つへと銃口を向ける。
 自分のものではない光線銃を扱うことはこれが初めてだが、意外なほどこの手によく馴染んでいる。2号と話した通り、やはり同じものなのだということを実感した。しかしこちらから見える銃身の色は、使い慣れたそれとは正反対の青。その銃身から生える形で取り付けられた飾りも、真っ直ぐな一枚ではなく斜めに伸びた二枚。それはどことなく、2号の後ろ姿に似ている。わたしと同じガンマのもの、けれどわたしとは違う2号のもの。その両方の性質を感じて不思議な気分に駆られたまま、引き金を引いた。
 先ほどから不明瞭な感覚ばかり覚えているが——今のこれも、嫌ではなかった。

「お見事!」

 一筋の光線に中心を貫かれた岩石が、重さを失ってごろりと転がり落ちる。すぐ傍からは拍手の音とそれに伴う金属音が響いた。
 これくらいの狙撃くらいできて当たり前であるのだからお見事でも何でもないのだが、賞賛は素直に受け取っておこう。青色の銃を握ったまま、赤いマントを翻した。

「光線の色は赤だったな。そこは銃を変えても変わらないのかな?」
「光線銃はわたしたち本体から流し込まれたエネルギーを銃弾の形に変えて発射するものだからな。使用する光線銃が何であろうと、弾の色は使用者に依存するのだろう」

 2号が青で、わたしが赤。衣服や光線銃以外のあらゆる部分にも、互いを象徴するその色の違いは盛り込まれている。エネルギーが可視化されるときも、その例の一つだ。一定量のエネルギーを放出して纏うことで拳撃や蹴撃の威力をより高めることができるのだが、2号の場合では青色、わたしの場合では赤色の光を放つことになる。

「だからおまえがそれで撃っても、青色の弾になるはずだ」
「ふ~ん……。じゃ、折角だしボクも試してみるか。……お、使用弾の設定はボクの方で設定したのを引き継ぐんだな。さっきの闘いで最後に使ったやつになってる! ……あ~、これを使っちゃったから次の動きが読まれちゃったんだよなあ。こっちを使っていれば……」

 まさかこのタイミングで戦闘訓練の反省が行われるとは思っていなかった。ちゃんと分析ができている以上、戦闘データのアップデートは済ませているのだろう。ポーズに気を取られるあまり疎かにしているのではと危惧したが、杞憂で済んだようで何よりだ。

「……よし、決めた!」

 つまみを回し終えた2号が、わたしがやったように光線銃を構える。——が、すぐに腕を降ろしてわたしの方に向き直った。

「折角だし、必殺技っぽく決めたい! ……から、向こう……正面から見ててくれよ! さっきポーズは全敗しちゃったけど、そのリベンジだ!」
「いいだろう」
 

 先ほど2号が銃口を向けた場所まで飛行する。着地すると、足元には先ほどわたしが撃ち落とした岩が転がっていた。

「ここでいいか?」
「OK! じゃあいくぞ、1号! バリアの準備はいいな!」

 大胆不敵に宣言して、2号は空高く飛び上がる。照りつける太陽さえ彼の照明と化した。青空よりも青いマントと、その広がる青の中ではよく目立つ銃身の赤色、そしてこちらを真っ直ぐに見つめる銃口の青色の目が、逆光を浴びて眩く煌めいた。