言葉と愛を尽くして

以下の要素が含まれます。

  • 龍球によるガンマ2号の復活
  • ガンマのCCでの過ごし方の捏造
  • 呼称の捏造(ガンマ・トランクス間)
  • ガンマ2号の落ち込み(杞憂なので元気になります)
  • ガンマ2号の特攻についての独自解釈多め

 

「よし、捉えた……! そこだっ!」
「わわ……っ! こんなのアリかよ!? ……うわ~~~~ッ!! 負けたあ~~~~! そのコンボ反則だろ!」
「よ~し勝った! これで一勝一敗、さっきのお返しは果たしたぞ」

 最新型の大型モニターを前にして、両の手でコントローラーを握りしめ。まだ少年の面影を色濃く宿す二人の青年——うち片方は元々少年と言うには些か大きく頑強な体躯の持ち主だったが、その無邪気で茶目っ気に溢れた気質はとても少年らしい——が、画面の向こうの人物たちに闘志を託し、己の指先で彼らを操り、熱い火花を散らしていた。
 二人の戦場となっている対戦格闘ゲームもまた、先日発売されたばかりの最新作だ。事前予約を済ませて早速それを手に入れていた青年——トランクスは、「今度悟天とやるから練習しておきたいんだ」と、同居人のガンマ2号に声をかけた。年下の親友の一歩先にいたいという矜持が、彼に抜け駆けの特訓もとい密かな努力を促していた。そして、一人で重ねる努力には限界がある。CPU相手に安定して勝利を収められるようになれば、物足りなさを感じてさらなる強さと対戦相手を求めたくなる。遊びに勉強にと多忙の日々を送るトランクスは、親世代の戦士たちほど自分自身のトレーニングに多くの時間を割くことはなかったが、時にはこうして父譲りのプライドと向上心を覗かせる。
 ガンマ2号の事情はより単純だ。ガンマ1号がドクター・ヘドと共に外出したため、暇を持て余していた。そこへ、暇を解決できる誘いが——トランクスからの指名が舞い込み、これを快諾。トランクスの部屋で白熱した時間を過ごすこととなった。その場を動かずとも確認可能な防犯カメラやシステムに気を配ることは忘れずに。仕事をしているより遊んでいる方が好きと断言できるガンマ2号だが、ガードマンとして、そしてこの留守を預かった者として、警備に関して完全に気を抜いてしまってはいけない、という意識もあった。少なくとも、今は頼れるもうひとりが不在なのだ。

 二度目の決着がついたため、その白熱も一区切り。トランクスは両腕を脱力させて天井を仰ぎ、御機嫌顔のガンマ2号はリザルト画面を軽やかに飛ばしていく。慣れた手つきでの操作だが、ガンマ2号の経験は今と先ほどの二戦のみであり、プレイヤー歴はトランクスよりも浅い。

「急に上手くなった……っていうか、上手くなりすぎ! さっきと全然違うじゃないか~!」
「ふふん。ヘド博士の最高傑作、人造人間ガンマなら、このくらいできて当然さ。練習台にする相手を間違えたかな? トランクスくん」

 わざとらしい君付けで煽る。基本的に推奨されない言動だが、相手との間に一定の仲があり、かつ相手が健全な反骨心を宿す人物であれば、

「くっそ~……、もう一回だ! このままで済ますもんか! 言っておくけど、さっきの初見殺しはもう二度と通用しないからね!」

コミュニケーションの一端として成立する。彼らも深くかかわる闘いの世界でも、今現在彼らが没頭している対戦ゲームの世界でも。
 一戦目では首を捻りながら敗北を喫したガンマ2号だが、それから数分経った今では、先達トランクスを煽れるだけの実力と結果を手にしている。自分の操作、そして相手の動き、あれこれ試して学んだ一戦目の経験を武器に、画面上の戦場を自由自在に飛び交い、相手を翻弄し切って完勝した。本人が豪語する通り、人造人間ガンマの誇る学習能力を生かしたプレイングだ。

「けど、羨ましいなあ……。……っていうか、ちょっと大人げなくない?」

 本来は自身の戦闘のために搭載された高度な機能。それを遊びに用いては、確かに手段を選んでいないように見える。だが、ガンマ2号は全力で勝利を掴み取ることを優先した。それが戦士——この場はプレイヤーとしてのあるべき精神とも言えよう。しかしそれ以上に、ヒーローはただ、戦闘民族にも引けを取らないほどの負けず嫌いであった。

「歳はキミとそんなに変わらない気がするなあ」
「あれ、でもオレより年下だったよな?」
「…………」

 先行機ならばともかく、まだまだやんちゃ盛りのこの青年より年下というのは事実でも釈然としない。答えあぐねたガンマ2号は口を閉ざすことにした。
 勝負内容の詳細を示すリザルト画面、対戦直前の最終確認の画面、ステージやルールの設定を行う画面——と順に切り替え戻していき、プレイアブルキャラクターの選択画面に辿り着く。急成長を遂げたガンマ2号への最も効果的な戦術を作り上げるべく、トランクスはここで長考を始めた。
 対するガンマ2号は、先ほどと同じキャラクターを選択したままで、決定の操作を行う。二戦目のラストを飾る形で披露した技は「初見殺し」と言われてしまったが、それ以外にも手札は残っている。事実を根拠とした自信半分、そして彼の性格由来の慢心半分だった。

「ところで……キミの親御さんは、こういうのどうなんだ?」選択を待つ間の暇潰しのために、ガンマ2号は適当に雑談を振ることにした。「闘うの好きだよな」
「パパのこと? パパが好きなのは自分で闘う方だけだよ。こういうのは全然ダメ。オレが小さい頃に一度対戦したことがあったんだけど……何というか……ははは……」
「へえ……」
「あ、でも悟空さんよりは得意みたい!」

 闘いの行く末を誤魔化すように、トランクスが苦笑する。「悟空さん『よりは』」という言い方も相まって、彼ら親子の方の決着は察せられたが、父の名誉をどうにか守ろうとするトランクスの姿勢に、ガンマ2号は密かに感心した。

(あの人たち、ゲーム不得意なのか……)

 レッドリボン軍も「中ボスクラス」と見なした実力者。最新にして最高の性能を誇る人造人間二号機復活の噂を聞き付けた彼らに頼まれて手合わせをしたこともあり、ガンマ2号は彼らの強さをよく知っている。その、抜群の戦闘センスを持つ強者たちの意外な弱点を掴めた——が、特に生かす機会が思い当たらなかったため、その情報はガンマ2号の思考の片隅に留まることとなった。
 代わりに、トランクスの他の身内に思いを馳せる。——ブルマにはゲーム制作の心得もあり、いくつかの実績も保持している。しかし、本人が熱心なゲーマーというわけではなさそうだ。彼女の本分はあくまでも設計と開発であり、腰を据えてゲームをしているという印象はない。まだ幼き少女であるブラもまた、今のところゲームの類に興味はなさそうだ。特に、今二人が向き合っている格闘ゲームには。サイヤ人の血を引く彼女だが、趣味趣向は母親に似ているとか。ガンマたちと同じく居候の身であるピラフ・シュウ・マイは今やブルマの片腕であり、ある意味ブルマ以上に多忙な日々を送っている。中でもマイはトランクスと同年代——彼女の実年齢をガンマ2号が知る由はない——だが、トランクスが彼女を自分の練習に付き合わせることはないだろう。彼が彼女を誘うなら、映画館とか、遊園地とか、そういうところだ。第一、「友人(孫悟天)に勝てるだけの実力を身に付けておきたい」という特訓の理由も、彼女には話し辛そうだ。
 そこまで考えて、ガンマ2号は得心した。なるほど、練習相手を求めたトランクスが、自分を指名するわけだと。消去法で自ずと選ばれるのだ。

「そっちはどうなの?」プレイアブルキャラクターに迷い続けるトランクスが、同じ質問をガンマ2号へと返した。「ドクター・ヘドとか、ママみたいにゲーム作れそうだよな」
「ああ……。何かそんなこと言ってた……ような気がするな……。まあ、博士ならできるだろうけど……」

 遠い眼差しで曖昧な返事を返すガンマ2号。何せこの最高の人造人間を創り上げた超天才科学者、制作に関する技術的な可不可は疑いようがない。だが、実際のところ、ヘドがどの程度ゲームというものに触れているのかは知らないと気付いたための反応だ。彼が多岐に及ぶ研究分野のみならずサブカルチャーにも明るいということは分かっているが、そのサブカルチャーへの意欲はヒーローもののコミックやアニメ、映画へと収束しているように思える。ゲームを全くやらない、というわけでもない気もするが。
 ——ガンマ2号は詳細な回答を見送ることにした。とりあえず、現時点で確実に言えることは。

「こういうゲームをこういう感じで遊んだことはない……と思う」
「?」

 ヘドの博士号取得後の研究室時代。そこで生じた人間関係における愚痴を、何度か聞いたことがあった。「人付き合いなんかしたってろくなことはない」と断言していた彼が、誰かと肩を並べてコントローラーを握る姿を想像する。そのギャップと、そして想像上の光景の不自然さで、ガンマ2号は少しだけ笑いそうになった。もっとも、この一年で彼はかなり丸くなったらしい。
 では、ガンマ2号のもう一方の身内は。——ゲームに限らず、あらゆる娯楽に対して自分から向かう姿は未だに知らない。だが、その腕前なら確信に等しい想像がつく。自分が先ほど、僅かな時間でこのゲームの闘いを掌握できたのだから。

「ガンマ1号はこういうの上手いよな」
「そうそう、だって1号も……って、ええ!? なぜそんなこと……!?」

 一戦目にて、気が付いたら負けていたとき以上にガンマ2号は驚愕した。
 ガンマ2号同様、ガンマ1号も高い学習能力を備えているから——という推測するのは難しくなく、ガンマ2号自身も正にそのことを考えていた。しかしトランクスは、まるで推測ではなく、彼がその目で直接ガンマ1号の実力を見ていたかのような口振りで話した。

「これとは別のゲームだけどさ、去年こんなふうに、練習の相手を頼んだんだ。ガンマ1号もすぐに、めっちゃ上手くなったなーって思い出してさ……。そこから先は、本当にお稽古みたいになっちゃったな。色々アドバイスとかもらったっけ……」
「へ、へえー……。……1号が……」

 その経験に納得を覚えるも、突如語られた思い出話はまた、ガンマ2号を動揺させる。コアが脈打つような感覚さえ錯覚していた。
 まず、彼らのそのような交流は、ガンマ2号にとって初耳だった。元来物静かで私語が少ないガンマ1号は、ガンマ2号に問われない限り、彼の不在中の一年間を語ることはない。語る際は、さながらレポートの要旨をまとめたかのように話し方で。その内容は業務に関連するものや、ヘドの様子に関する話が大きな割合を占めている。ガードマンの任に就いた者として、そしてヘドを任せられた従者としての報告そのものだった。それでも上手くやれているということは分かるのだが、こうして第三者に彼の様子を伝えられれば、「上手くやれている」という確信がより強固になる。

(やっぱり1号は面倒見がいいな……。……ずっと前から、分かってたけどな)

 もう一つは、懐かしさ。そしてそれに基づく喜び。ガンマ1号がどれだけ的確で、そして手厚い施しを与えてくれるかということを、この世界の誰よりも知っている。一年の不在期間というブランクを経てもなお、ガンマ2号にはその自負がある。何度も彼に差し伸べられた手を握ってきたのだ。先行機、そしてヒーローの先達としては当然の行いだったかもしれないが、ガンマ2号を最初に救ったのはガンマ1号であり、ガンマ1号が最初に救ったのはガンマ2号である。そう信じているガンマ2号にとって、誰かを助け導くことのできるガンマ1号の力は、強さは、既知の事項だ。自分こそが、導かれ成長した者の第一例なのだから。
 懐かしさ、すなわち既知とは、ある種の理解。先ほどの驚きは交流の事実自体に対するもので、ガンマ1号がトランクスを——誰かを助けていたということは、声を上げるほどの対象ではないのだ。彼ならば当然だと理解しているから。その上で、鼻高々、とでも言うべき気分を味わっていた。「当たり前」を「当たり前」と感じること、しかしそれを自慢げに思うことは両立する。ガンマ1号の美点をとっくに知っていたと自覚することは、ガンマ2号に晴れやかな快感をもたらした。

「なあ、1号の話、もっとないのか?」すっかり得意になったガンマ2号は、次弾をねだることにした。
「ガンマ2号の方が詳しいと思うけど」
「ボクはここに来たばかりだぞ」一年前以前の話なら詳しいけどな、と思いつつ、謙遜のみを口にする。「そうだなあ……。じゃあ……」

 ただ話せと言われても難しいだろう。ガンマ2号は何らかの題を捻り出そうと試みる。
 そして、すぐに思い至った。今度はガンマ1号の活躍というものからは逸れているが、折角の機会だ。本人に直接尋ねたところで躱されてしまいそうなものを。

「1号、ボクのこと何か言ってたか?」
「ガンマ2号のこと?」
「2号はこんなやつだった、とか、2号とはこんなふうに過ごしていた、とかさ」

 自分の知らない新生活の思い出も気になるが、先ほど自分がガンマ1号との日々を思い出し、彼への印象に浸ったように、ガンマ1号もまた、自分との時間を回想することはあったのだろうか。
 二つの関心を天秤にかけた末、ガンマ2号は後者を選んだ。他人に対し、ガンマ2号のことをどのように紹介したのか。それはその「他人」を介さなければ得られない情報であり、自力で何とか聞き出すこともできそうな前者よりも貴重だと思えた。
 「わくわく」という擬態語がよく似合う様子で、ガンマ2号はトランクスの言葉を待つ。

「実は、オレも悟天も尋ねたんだよねー。『ガンマ2号ってどんな人だったの?』って」
「……いきなり話遮って申し訳ないんだけど、なぜそんな質問を?」ただ単純に、興味を持たれているということに、興味を持った。
「え、だって気になるじゃん! ガンマってカッコいいし」
「へえ……!」特に予想していなかった称賛に、ガンマ2号の気分はますます高まった。「それはどうも、ありがとう。今度サインを書いてあげよう」
「やった」

 愚かにも悪の組織の下で過ごし、日の目を見ずに生涯を閉じた自分に、まさかファンがついているとは。「古くさい」と言われてしまったこともあったが、分かる者には分かるのだ。驚きを自信の増幅分へと変えてガンマ2号は満足げに笑む。ファンならもう少し構ってやれば良かった——という思いも浮かんだが、その反省はすぐに取り消した。結果を知った今では、大勢の隊員らが去って閑寂とした基地を彼らが訪れた時点で、ガンマ2号に残された時間は少なかったのだと分かる。だから、ガンマ1号ひとりの傍に居続けて良かったのだ。

「で、1号はなんて?」逸らした話の軌道を、ガンマ2号が修正する。
「最初に言っておくけど、あんまり話してもらえたわけじゃないよ。ガンマ2号との思い出話……みたいなのも聞けなかったな」
「え……っ」

 だからガンマ2号のこと、どういう人かあんまり分からなかったんだよなー、とにこやかに懐かしむトランクスの声を、ガンマ2号はどこか遠くに感じていた。散るさだめを選び、同じ場所にいられなくなった自分のことを、せめて彼が青少年たちに語ってくれていたら——という期待は、ガンマ2号が自分で思っていたよりもずっと、膨らみすぎていた。その期待が半ば破られ、有頂天に昇りつめていたところから一気に叩き落された彼は、ただ絶句するしかなかった。
 納得は、不可能ではない。悪の組織に身を置いていたときの話を語りたくはないかもしれない、ヒーローのプライベートはヒミツでいいよな、多くを語らないのは1号らしいな——など、彼の沈黙についての柔らかな原因は、いくらでも思いつく。しかし、少しばかり口を尖らせてみたくもなった。思い出、たくさんあるじゃないか。ちょっとくらい話してくれてもいいのに、と。

(悪の組織だったけど……。ボクは……1号と一緒にいられて良かったんだけどな……。1号は……ボクと同じ気持ちじゃないのかな……)

 不自由な環境だったとはいえ、もっと多くのことを共に経験できていれば。それとも、より劇的な出来事を作り出すべきだったか。告白のタイミングを過剰に遅らせてしまった——結局、一度目の生の間に決行することはなかった——かもしれない、もし告げていれば、こんな事態は回避できたのでは。その優秀な頭脳に高速の稼働を強いて、ガンマ2号は迷走気味の反省を始めていた。

(はは、情けな……。……恋って、厄介だな……)

 暗天を戴く死闘の中、無償の愛を捧げる決意を固めたことがあった。しかし二度目の命を得た今、ガンマ2号は己の中に生き続ける恋慕の情を自覚せざるを得なかった。そのため、等量の好意を求めてしまう欲心が、些細なことで蘇る。
 ガンマ1号との思い出ならいくらでも語れるという自信がガンマ2号にはあったが、ガンマ1号から同じ言葉が返されることはない。それが飢えとなって欲を刺激し、乾いた悲しみを生み出す。流せない涙を一滴くらい零してしまいたくなったが、それが叶わないから、ガンマ2号は心の中で力なく笑っていた。

「そんなに落ち込まないでよ!」露骨に肩を落としたガンマ2号に、トランクスが慌てて声をかける。「何にも話してもらえなかった、ってわけじゃないから。一言だけど、ガンマ2号のこと、ちゃんと話してたよ」
「そうなのか……?」

 鈍い動きで、ガンマ2号が顔を上げる。両目に宿っていた期待の輝きはほとんど失われていた。実際、一言だけか、ボクなら百言えるぞと考えている。
 未だ打ちひしがれているガンマ2号とは対照的に、自信ありげなトランクスは、おもむろに口を開く。

「……『スーパーヒーローだ』……ってさ」
「————」

 闇雲に求めていた幾千幾万の言葉より、ずっと絶大な一言だった。
 鮮烈な衝撃に打たれたガンマ2号の脳裏に、愛しい相手の声で紡がれた、同じ響きの言葉が蘇っていた。ガンマ2号が、彼と奇跡的な再会を果たした日のことだ。

『2号、おまえに言っておかなければならないことがある。……ピッコロからの言葉だが』
『……?』

 関わりがないと言えば嘘になるが、交流あったと言って良いかは微妙ところにいる相手だ。ガンマ2号は不思議に思いながらも、ガンマ1号に伝言の内容を促した。

『おまえのことを、こう言っていた。……『スーパーヒーローだったな』、と」
「…………!」

 人造人間ガンマにとっては当然の称号。それと同時に何よりの誇りでもあり、最大の賛辞だ。
 愚かにも悪と見なして敵対した。すぐに真実を呑み込むことができず、迷惑をかけた。そこから挽回して、認められたのだ。そんな意味が含まれていたということもあって、「伝言」を聞いたガンマ2号は大いに喜んだ。
 だがそれは、ずっと以前から欲していた称賛で、そして誰よりも言われたいと願う相手がいたのだ。——叶った。叶っていた。

「……何だよ……1号……! ボクのことそう思っているなら、言ってくれればいいのに……!」

 片手で顔を覆いながら、ガンマ2号は再び俯く。その指の隙間からは、抑えきれない歓喜に彩られた笑みが見える。
 「言ってくれればいいのに」と言いつつ、ガンマ2号はもう分かっている。もう、言っていたのだと。あれはピッコロからの預かり物であると同時に、ガンマ1号自身の言葉でもあった。「伝言」という形式に終始したのは、生真面目かつ自身の感情には不器用なガンマ1号らしいと感じて、ガンマ2号は彼への愛しさを募らせた。
 ガンマ1号に認められ、信じられていた。それが、何もかもが報われたような思いをガンマ2号にもたらす。


(1号が無事なら……それで良かったはずなのにな……)

 その決意に嘘偽りはない。それぞれに別の役割を定めたガンマ2号の策に隙はなかったが、ガンマ1号は凜乎として彼を見送ったわけではなかった。別れ際に彼が見せた表情を目の当たりにしてもなお、ガンマ2号が己の決断を貫き、また今でも貫く気概を持ち続けているのは、ひとえにその意思があるからだ。それでも褒め言葉という僅かばかりの見返りに憧れてしまうのは、恋心が引き起こすノイズであり、恋心を蘇らせてしまった者の性だが、それさえも満たされた。
 また、懐かしくなった。ガンマ2号は、いつだってガンマ1号に救われる。

「……キャラ選択、終わったよ」ガンマ2号が満足を味わいきった頃合いを見計らって、トランクスがコントローラーのボタンを押した。「三戦目、できる?」
「……ああ、もちろん!」ガンマ2号も、現在の得物であるそれを強く握り直す。「スーパーヒーローの力、見せてやろう!」