子供たちの問答

以下の要素が含まれます。

  • ガンマ2号と人造人間21号が喋ってるだけでガンマ1号は出てこない
  • ガンマ2号の落ち込み(最終的には元気になります)
  • ガンマ2号の特攻に関する独自解釈
  • ガンマの身体機能に関する捏造(味覚など)
  • ゼ2EXミッション時空の人造人間16号と21号の設定捏造(二人の関係はファイターズのときと同じ、21号の食欲克服など)

 

「1号とケンカしたんだ」
「まあ……」

 新設のラボの入口で、ガンマ2号が項垂れている。俯く姿は深い悲しみを物語り、一方でその足元を睨む視線には、確かな憤りが込められていた。
 やや強いノックの音と共に現れた、急な来客。ドアを開けて彼を迎え入れた、ラボの主——人造人間21号は、口元を手で覆って立ち尽くした。眼鏡の奥の切れ長の目が、大きく見開かれている。冷静かつ穏やかな彼女がここまで狼狽えることは珍しいが、ガンマ2号の言葉と様子はそれ以上に稀——どころか初めてだ。
 あるときはガンマ1号にたしなめられ、またあるときはガンマ1号に誘いを断られ——そんなガンマ2号が21号の元へと駆け込み彼女に泣きつくことこそ日常風景だが、ガンマ1号はガンマ2号を本気で疎んでいるわけではなく、ガンマ2号は持ち前の楽観的な性格に加え、そんなガンマ1号の真意への理解があるから、傷付いた「ふり」をしているだけである。愛に飢えた弟とそれをあしらう兄のように見えたとしても、一連のやり取り全て、彼らにとってはじゃれ合いの一環だ。そこに「ケンカ」という表現が宛がわれることはない。
 ところが、ガンマ2号は今、自らその言葉を口にした。常に溌剌としていた明るさもすっかり絶えた声色が、それが冗談でも誇張表現でもないのだということを示している。

「どうぞ、お入りください」イレギュラーを目の当たりにして動揺を覚えた21号だったが、それも僅かな間。すぐにガンマ2号を中へと通した。「奥の休憩スペースで、少し待っててくださいね。今、美味しいお菓子とお茶をご用意しますから」
「あ……。……助かるよ、21号」

 悄然としたままで、ガンマ2号は礼を告げ、遠慮がちに入室する。応対の準備に取りかかる21号とは対照的に、重い足取りで進んでいく。

(……気を遣わせちゃったなあ……)

 自分が深刻な事態を抱えていて、その愚痴と相談には時間もかかるということを察したから、21号は嗜好品を振る舞おうとしてくれている。
 ——彼女はこれまでも、ガンマ2号含む来客をそうやって迎えていた。ガンマ2号の沈んだ気分は、それを思い出すことを阻み、代わりに誤解を生み出して、彼の表情をまた一段と曇らせてしまう。

 

 ラボの奥、立ち並ぶ機器の背に隠れるようにして、21号特注の休憩スペースが設けられている。最新の研究設備が揃えられた、無機質でクリーンな世界から一転して、甘い香りが漂う空間だった。そこに居る者の嗅覚をくすぐって、柔らかな食欲を誘うような——。

「このお菓子いいなあ!」一口齧ったバタークッキーに、ガンマ2号が目を見張る。「食感も好きだし、味も濃いんじゃないか? ボクでも美味しいって思えたよ」
「それは良かった! いいですよね、バターの濃厚な風味! 2号さんの……ガンマの味覚にも合うと思って、選んでみたんです」
「へえ、バターってすごいんだな……」

 生物工学を介さない人造人間であるガンマにも、摂食の機能及び味覚は搭載されている。しかし、味覚の精度は人間の数十分の一程度であり、かなり鈍い。元々、敵の攻撃によって内部に作用する毒素を取り込んでしまうという事態に備えた、ダメージ——知覚の緩和と対象の迅速な分解に特化した機能であるためだ。食欲旺盛で甘いもの好きである開発者は、これを改良して自身同様の感性に基づいた味覚と両立させようと奮闘しているのだが、現状、軍からの予算が下りていない。
 そのガンマさえも「美味しい」と感じられる砂糖とバターの濃度は実のところ相当なものであり、甘い物をあまり好まない人間であれば、香りだけでも受け付けられないような代物だ。だが、21号もヘド同様無類の甘党。最近は少し塩気のあるものがマイブームだが、あくまで些細な好み。今は同じシリーズのココアクッキーをサクサクと頬張り、頬に手を添えてうっとりとしている。

「あと、この紅茶」クッキーを食べきったガンマ2号が、ティーカップを持ち上げてミルクティーを啜る。「オトナな飲み物で、甘くはない……ってイメージがあったんだけど、これは甘いんだな。ボクが言っても説得力はないかもしれないけど、たくさん飲めそうだ」
「そうでしょう? ミルクとお砂糖をたっぷり入れてみたんです。……ヘド博士は、紅茶は嗜まれないのですか?」
「牛乳かココアかジュース飲んでるとこしか見たことないな。お菓子も、ずっと同じもの食べてる気がする」

 テーブルに乗せられたバスケットを眺めながら、ガンマ2号は記憶を辿った。
 ヘドの食事風景とは対照的に、バスケットには多様な焼き菓子が詰められていた——が、よく見ると、一種類だけ数が少ない。次いで21号の手元に視線を移せば、空になった個包装の袋が綺麗にまとめられていた。中身が区別できるよう、それぞれの袋は色分けをされていたが、彼女の元にある袋は全て同じ色をしていた。

「……キミたち、やっぱり似てるな」

 甘味好き同士であることも、気に入った味一つを繰り返し味わうところも。

「似てる?」
「二人とも、科学者で甘い物好きだろ。……だけど、な~んかそれだけじゃない気もするんだよなあ……」
「……ふふ。確かに、ヘド博士とは話も合いますし、学ばせていただけることも多いですよ」
「……?」

 軽率・浅慮な側面も目立つガンマ2号だが、時として鋭い観察力や洞察力を発揮する。21号がヘドへと向ける視線には、同じ研究者としての敬意や仲間意識、そして自身の改良——人格に支障をきたすほどの捕食衝動というバグを起動直後から抱えていた彼女は、ヘドの協力も得てそれを克服したらしい——への感謝だけでなく、何か、説明のつかない慈愛のようなものが込められていると、薄々感じていた。

(……21号、もしかして博士のことを……? ……いや、ないないない、まさか! そういうのでもない気がする!)
「?」

 急に首を横に振ったガンマ2号に、今度は21号が首を傾げた。
 彼女の意味ありげな微笑の理由に、ガンマ2号は気付かない。完全人工製の人造人間である彼にとっては、やや難しい発想を要求される問題だった。正答の代わりに思い浮かぶ可能性は、彼が別の相手に向けているものと同じ感情だ。そして、その感情については当事者であるからこそ、主と彼女の間に当てはめようとしても、正しい違和感を覚えられる。

「……はあ」


 思い出したから、ため息をつく。その感情の対象と、彼との間に起こってしまった衝突を。

「2号さん?」
「……さっきも言ったけどさ。1号とケンカしたんだ」

 ミルクティーに口をつけてから、ガンマ2号は改めて打ち明ける。言葉こそ、21号のラボを訪ねたときと同じだが、幾分か和らいだ表情で。
 芳醇な甘味と香りで満たされた空間、そして穏やかな談笑は、人に安らぎを与える。それが人造人間であっても、ヒーローであっても。自身も好む菓子を用いてのもてなしが、彼の重たい心を少しだけ軽くできたと感じて、21号は優しい安堵を覚えていた。

「……珍しいですね、おふたりがケンカなんて」労うように、相槌を打つ。「確か……午前中には知能テストの予定が入っていましたね。その後ですか?」
「そう。その回答のことで、ちょっとね……」

 掃討作戦の幕は未だ開けず。その状況下で、戦闘用の人造人間であるガンマに課される任務といえば、軍の雑務、そして自身の性能保持と向上だ。
 その「性能」には、ロボットが持ちえない自律的な判断能力と、人間を超えた処理能力、悪を砕き世界を救うヒーローとしての精神性——命令に従える忠実性も兼ねた——といった思考力も含まれている。それらを問い、ガンマの質の確認と意地を図るため、彼らに向けた知能テストは定期的に組まれている。回答に一つでも瑕疵が認められれば、開発者は直ちに思考修正のプログラムを施すようにと軍に定められているのだが、二体とも常に完璧なスコアを記録するため、そのルールが適用されたことはない。

「今回も、テスト自体は満点だったよ。ボクたちふたりとも。だけど……。……自分で回答を入力してはいるんだから、変なことかもしれないけどさ……。一問だけ、納得できないところがあって、すっごくモヤモヤして……。テストが終わった後で、1号に相談してみたんだ。そうしたら、その答えが正しいと本気で信じていた1号には全く分かってもらえなかった、って話」
「……そうだったんですね」

 「ケンカ」そのものの珍しさに驚いていた21号だったが、今度はまた別の意外さに目を丸くした。
 ややノリが軽いガンマ2号と、冷静沈着なガンマ1号。対照的なふたりのガンマの意見が分かれることは、寧ろ彼らの常だ。稀な出来事である「ケンカ」の原因として、日常風景にも当てはまるものが挙げられたことは、彼女にとって予想外だった。気質の不一致が、不和の理由にはならない——そんなふたりだという印象ばかり抱いていた。

「その、問いの内容と回答をお尋ねしても?」
「ああ、全然いいよ」ガンマ両名に対して既に実施されたテストの開示に制限はない。

 ガンマ2号に問いかけながら、21号はそれについて予測する。——意見の対立が生じるならば、明確な正答が一つだけ用意されている、知識や純粋な処理を求めるものではないはず。判断力や人格の精細な部分が問われる自由記述式の問題、それも単純なものではなく、複雑な倫理が絡むような——。

「……終盤の設問でしょうか?」
「お、当たり」難易度の高い問題ほど、後半に設置されるものだ。「それこそ、終盤……。……『最期』を尋ねる問題だな」
「最期?」
「『ある強大な敵と対峙している最中とする。単独行動での攻勢に出た場合、敵は倒せて味方は守れるが、自身は無事では済まず、命を落とすリスクもある。しかし、防戦に徹すれば消耗戦となる。勝利の確率は下がり、闘いが長引くにつれ、味方に損害が及ぶ可能性も高まる。このような状況において、どのように行動すべきか』……だったかな」
「なるほど……。……自分を犠牲にして皆を守り、苦闘を打破するか。それとも、厳しい長期戦を覚悟の上で、皆で耐え抜くか。その二択を問う問題、ですね」
「そうだね。で、正解は自分を犠牲にして、事態を一気に解決する方」
「……そう、ですよね……」

 その選択を、21号も理解した。自分が同じ問題を解くことになれば。自分が、その岐路に立たされたら。きっと、ガンマ2号が口にした正答を選ぶのだろうと思えた。並大抵の覚悟で下せる決断ではなく、実際には、答えに辿り着くまでもっと時間がかかってしまうかもしれないが、それでも。
 全員で死闘を生き抜くという最上の可能性に賭けることも、悪手とは言わない。だが、自分一人の命で、仲間たちが助かるなら。彼らへの想いがある限り、それが心から信じる最善策となる。今は彼らこそが、彼女にとって最も優先すべき存在なのだから。

(でも……それは……)

 あくまで、自分一人が密かに、静かに、心の内に秘める決意だ。他の誰かに要求しようとは決して思わないし、その誰かが——自分の仲間が、同じ決意で死地に挑むのであれば、力の限り引き留めたい。自分が命を賭せるのは、仲間の無事を願っているからだ。
 そして、彼女が仲間には望まないものを、彼女の仲間は——ガンマは望まれている。それが、自己犠牲が正答となる問いの出題が帯びる意味だ。

(…………っ)

 胸が握り潰されるような痛みを感じていた。それが、闘うために創られた人造人間の使命だとしても、代われるものなら代わってやりたかった。
 16号、ドクター・ヘド、ガンマ。彼女の仲間の多くは、彼女にとってただの仲間ではない。製作物を製作者の「子」とする表現があるが、それに則れば、ガンマもまた、彼女の血縁に等しい存在だ。その彼らが、自ら犠牲になることも、それを求められていることも、やるせない。感情において許容することが、酷く難しい。

「……あの、そのテストは、誰が作成したのですか?」
「今回は軍の人。前回はヘド博士だったけど……。……博士じゃ、この問題は作れないよな」
「ふふ、やっぱり。安心しました」

 問いの内容を聞いてから覚え続けていた微かな違和感が晴れていく。ヘドは、自らが手がけた人造人間にそれを求められるような人物ではなかった。

(なら……。2号さんが、その回答に納得がいかないと感じているのも頷けますね……)

 出題者が異なる以上、決死の覚悟を抱くことは、彼らが付き従う開発者からの命令ではない。彼らにとっての絶対の価値観は、ヘドの価値観にも等しい。自身の命という要求の重さに加え、「ヘドならばそんな指示は出さない」ということも理解しているのならば、反発心を燻らせても仕方がない。
 そして、ガンマ2号であれば、なおさら。彼らガンマも21号同様、実年齢以上に高い精神年齢の人格が組み込まれている——が、ガンマ2号はその性格ゆえか、先行機よりも無邪気で幼い一面が目立つ。ヒーローとして勝利を重ねていくという、光ある将来もある。その手で平和を掴み取った後でやりたいこともあるのだと、目を輝かせて語る姿も目にしてきた。その彼に、命を捨てる覚悟を持てと言うのは酷な話だろう。

「まあ、ボクがこの問題の通りにするのはいいんだけど」
「えええっ!?」

 21号は、叫び声を上げるほど驚愕した。問題そのものの是非に苦い思いを、そしてガンマ2号の拒絶に納得を覚えていたというのに、ガンマ2号は急に主張を翻したかのように、その問題に理解を示してみせた。

「21号……?」
「い、いえ……! ……その、2号さんは、正しいと規定された回答に疑問を持った……というわけではないのですか……?」

 そう言って、ガンマ2号の話に耳を傾けている最中に、自身の中でまとめていた考えを話した。命まで差し出すほどの献身を、ヘド以外の者に求められること、そして自分の未来を失うことへの不服——という推測を。

「……そりゃあ、ボクだって死にたくはないさ。だけど、本当にこういう状況になったなら、やるしかないし……やりたいって、思うんじゃないか。たとえ死んでも、大事なひとを守れるのなら……きっと、心から胸を張れるだろ。ボクはこのために創られたんだって。だから、この答えには納得しているよ」

 晴れやかな笑みを湛えて告げられる言葉には、灯火のような意思が込められている。切っかけ一つに揺られれば、たちまち火炎となって燃え盛り、その温度と輝きは失わぬまま尽きていくのだろうと予感させる、確かなもの。
 21号は、静かに息を呑んだ。幼い少年のように思うことも多かった相手だが、今目の前にいるのは、そんな人物ではなかった。ひとりの戦士であり、そして英雄へと至る者だ。

「不満なのは、さっきキミが述べた通り。……他のひとに、そんなことはしてほしくないし、求められてほしくもない」テーブルに置かれたままだったガンマ2号の手が、拳の形を作る。「ボクひとりがやるテストだったなら、ここまで深刻に考えてなかっただろうな。……だけど1号も、同じものを受けていた」
「……1号さんも、同じ答えを……」
「……そうだな。1号も全問正解だ。そこは本人に尋ねるまでもない」同型機を誇るような言葉の響きは、どこか苦々しい。「だから、せめて本心では……。そんなことしたくない、とか……思っててほしかった。……分の悪い賭けだったな」
「1号さんらしいですね……」

 ガンマ2号が決死の覚悟を備えていたことこそ些か意外だったが、ガンマ1号であれば、容易に想像がつく。迷いのない、冷静かつ的確な彼の判断力は、たとえ己の身を顧みない手段であったとしても、それが最善策であるならば、容赦なくそこへと至ってしまうだろう。

「そうするべきだって信じて疑ってなさそうな1号を見ていたら、何だか……すごく、辛くなって……。もう、理屈なんて追いついていないのに、否定したくなって……。……そこから、ケンカになっていった。お互い譲らなかったから、言い方もどんどんキツくなって……。……今思うと、ボクは全然、冷静じゃなかったな」
「2号さん……」

 俯いたガンマ2号の視線が、冷たくなってしまったミルクティーに落ちる。その大きな目も、水を湛えたように揺れて歪む。自省や後悔とはまた違った、自棄と失意を乗せた乾いた笑みが、力なく零れていた。

「1号が怒るのも、無理ないよな……。1号は、ヒーローとしての正しい選択をしたのに……ボクはそれを、自分の感情だけで否定した。『死んじゃダメだ』って、ひたすら駄々をこねた。『見くびるな』って言われても仕方ないよな……。……そうそう、『博士の命令や命が懸かっているとしても、おまえは同じことを言えるのか』とも言われたな」
「……2号さんは、何と?」
「……『言える』。すぐに、そう返した」ガンマ2号は顔を上げた。深い自嘲が滲み出た眼差しが、21号の瞳に映ることで、彼自身へと跳ね返る。「バカだよな……博士のガンマなのに、こんな……。思考矯正の措置を勧めなかっただけ、1号は寛大だよ。でも……ボクだって、分かってる。ボクたちふたりとも、テストで出した答えが正しくて、当然なんだ。ボクひとりなら納得できるのに、1号相手には、身勝手になって……」
「……身勝手なんかじゃない。2号さんの想いだって、当然です」自責を遮るように、21号が声を上げた。「大切なひとが傷付くのを見たくない、我慢できない……。それって、当たり前の気持ちでしょう?」
「……21号」
「だから……ふたりとも正しくて、間違ってないと思います」

 切実な訴えが、ガンマ2号の胸に響いていく。ぐちゃぐちゃになりかけていた心に、一点の清澄が生まれて、波紋のように広がった。

「……ボクの言ってること、おかしくなかったか?」
「はい、もちろん。どうか……自信を持ってください。その心を、失ってほしくはないです」
「そっか……。……ありがとう、21号」

 ヒーローとしての正しさと、大切な誰かを想う心。その二つが対立することは、ガンマ2号にとって初めての経験だった。自身は前者を貫き、しかしその「誰か」には、同じ立場であるにもかかわらず、前者を許さずに後者を向ける。その矛盾は「誰か」との軋轢まで生み出して、ガンマ2号を追い詰めていた。——だが、自然な矛盾なのだと思うことができた。自分ひとりが迷い込んでしまった険しく厳しい道とばかり思い込んでいたが、一度捉え方を変えてしまえば、気分まで変わっていく。
 しばらくの間、触れることを忘れていたティーカップを手に取る。すっかり冷めてしまっているということに、ガンマ2号はこのとき気付いたのだが、それでも美味しいと感じられた。心のままに、全てを飲み干せた。

「……1号に、死んでほしくないな」

 改めて吐露した本心は、軋轢の引き金となったもの。それでも今は、優しさと自信に満ちていた。

「……お茶、淹れ直してきましょうか?」ガンマ2号の表情の綻びを目にして、21号が提案する。「温かい方が、美味しいですよ」
「……ああ。頼もうかな」

 持ち上げられたソーサーとカップが、軽やかな音を立てた。