Novel/BLL-潔カイ
【サンプル】再壊<1>(全4ページ/1ページ目)
「試合、お疲れ様でした! 2ゴールの大活躍、新英雄大戦完全優勝! そして〝青い監獄〟ランキング堂々のNo.1! ——おめでとうございます、潔選手!」
「……。——あ、はい……! ——ありがとう、ございます」
戦友の敗退に涙した直後、ソイツらを踏み躙ったチャンピオンとして歓待される。報道陣の熱気とは対照的に、凱旋した居城の一室は冷房がよく効いていた。目元や頬にきっと濃く残ったままの涙痕まで、世界に知られてしまうんだろうか。
初めて脚光を浴びたU20戦、そして新英雄大戦を勝ち進む中、幾重の期待が込められたカメラやマイクには慣れてきたハズだった。おかげで、異なるようで矛盾しない二つの現実の狭間に立ったままでも、こうして英雄扱いに応じられる。心なんて全部、置き去りにしてしまえる。
「……——」
「潔選手? 試合直後でお疲れのところ申し訳ないのですが……このまま、インタビューに移らせていただいても?」
「……はい。よろしく、お願いします」
「置き去り」。——その感覚に、少しだけ首を捻りたくなった。生存競争に敗北し、監獄から追い出された戦友の憂き目を表すには、やや不適当な日本語のように思えた。
でも不思議と、凪に合わせて思考の訂正をする気は湧いてこない。敗者の扉の向こうへと姿を消した凪を引き留める権利を持たない「残された側」でありながら、「置き去り」にしている感覚が確かにある。
だから、まるで——戦友とはまた別の何かを、監獄の中で失っているみたいだった。それも、この「心」を——魂までも売り渡せたほどの存在を。
それほどの想いを捧げてまで渇望した勝利と玉座には確かに至れた。けれど幕引きの瞬間に、予想外の望まぬ後味まで与えられている。俺の悦びも未来への展望も、途端に上塗りしてしまった、灰色の後味。——それは、凪の結末を目の当たりにして、初めて覚えたモノだったのか? 俺にとっての〝新英雄大戦〟の結末って、なんだ?
No.1の快感、論理で叩き潰した脳汁体験——それらに脳を焦がすよりも、もっと前。俺の思考は、また別の激情に統べられていた気がする。
「灰色」なんかよりずっと、どす黒かったかもしれないモノに。
「……さて、新英雄大戦を制し、名実ともに〝青い監獄〟11傑の中心的ストライカーとなった潔選手にとって、次なる挑戦の舞台はいよいよ、U‐20W杯となりますね!」
「そ、う……ですね……」
試合の振り返りとなる簡単な質問を数度経た後に、インタビュアーは話題のコマを未来へと進めた。
それ自体はごく自然な遷移。——驚くのは俺の答え方。来ると分かっていたような話題なのに、いざ突き付けられれば歯切れの悪い返事をしてしまった。
凪のいない〝青い監獄〟11傑を意識して戸惑ったか——それとも、俺が俺自身の〝未来〟を、少し迷い始めてしまったせいか。「日本代表の潔世一」とはまた異なる、ひとりのフットボーラーとしての「潔世一」の未来を。
栄えある順位、「ISAGI」の名と二億四千万の値打ち。——そしてそこに添えられていた、剣と盾のエンブレム。
俺の未来を示すかのような象徴を思い返すほどに、それへの迷いも自覚するしかなくなっていった。
「U‐20W杯で見据えられるライバル国の一つは、やはり王者・フランスでしょうか?」
幸い、インタビュアーに俺の様子は気取られていないのか、それとも構わないでくれているだけなのか。U‐20W杯についての話題は滑らかに進められていく。
——数ある出場国の中から勝手にフランスを選んでくれたのも、どうしてかありがたいと思ってしまった。
(フランスについて話したかったってワケでもないけど……)
それとは、逆。フランスとは別の、どこかの国の話を避けたかった、ような。
「BLTVや各種SNSでは、早くも〝ジュリアン・ロキ〟選手との再戦を望む声が高まっているようです! U‐20W杯での実現が叶えば、試合で設けられた三分間の制限もない直接対決となります! そこで、潔選手の自信の程はいかがでしょうか? 二度目の勝利宣言の見込みは?」
「二度目……」
そうだ。俺、試合の途中でアイツに噛み付いたんだっけ。
『この調子じゃあ、日本から世界一のストライカーが生まれるのはあと何万年後かなぁ』
『黙れよ、お前の負けだろロキ』
だから、試合を終えた今、アイツへの改めての言及を求められているのか。
「……はい。ハンデは不要です。そして〝何万年〟なんて、クソ気長に待ってもらわなくてもいいですよ。——次の戦いで、俺が、日本を〝世界一〟にするストライカーになるので」
向けられたカメラが一斉に激しく光り出す。
言葉だけ端然と述べ、けれど視線は少し遠くに向けていたから、それで目が眩むコトはなかった。
(……何で俺、あんなに、アイツにキレてたんだろ)
我がコトながら、随分と反射的な噛み付きだったような。
「秀才」の功績を認めずに負け惜しみを吐き、あまつさえ日本サッカーと〝世界一〟の未来さえも嘲弄したから? ——それも間違いじゃないけれど、反射的な憤怒を呼び起こしたのは、そんな崇高な立場や使命に基づくモノじゃなかった気がするんだよなあ。
ただ——潔世一にとってより単純で、もっと大切で、根源的な何かに向けられていた侮辱に、反撃したかったんじゃないか?
(じゃあ、その侮辱の正体ってやっぱり、アイツが「秀才」を認めなかったコト?)
きっとそう、だけど、もう少し踏み込んだ回答もできる気がする。
——そしてその答えは、俺が「置き去り」にしてしまった何かと、結びついているかもしれない。
「もう、『天才』には怯みません。——神にだって、反逆してみせます」
ともかく、試合中掲げ続けたこの闘志は絶対に間違いじゃない。そう信じて打ち出せる宣誓で、今向けられている問いへの結論を締め括った。
演出的な表現を効かせた少しばかり大仰な宣戦に、報道陣は大きく湧いた。繰り返し瞬くフラッシュ音は、拍手喝采の音によく似ていた。
(——神への、反逆)
何を意識するコトもなく選んだハズの表現。——なのに、何だかどこかからの借り物のようで、それでいて俺の精神にしんと溶け込む、不思議な熱を秘めた響き。
「さすがは潔選手! 野心的で挑戦的なコメント、ありがとうございます‼ ——そして、本日生まれたばかりの潔選手とロキ選手の因縁を振り返り、そして潔選手から『神』という表現をいただいたからには……もう一人、BLTV視聴者の皆さんの頭に思い浮かぶ選手がいるのではないでしょうか!」
「——……!」
「残念ながら、来たるU‐20W杯で相まみえることは叶いませんが……ロキ選手同様のフランス代表であり、何より潔選手の宣戦布告により、将来のライバル関係として注目の高まる……現役No.1ストライカー、〝ノエル・ノア〟選手!」
「……」そうきたか。
どうしてか肩に入っていた力を抜いた。なぜノアの名を出されるまで身構えていなきゃいけなかったのか、俺は他に誰が挙げられると予期していたか——は、分からなかった。
ただ、U‐20W杯へと向かっていたハズの話題の方向を、その大会には出場しないノアの名を用いて再度転換したコトはやっぱり意外だ。てっきり、今日の試合とU‐20W杯、二つの話題の橋渡し役として、ロキを用いたんだと思っていたから。けれどU‐20W杯についての具体的な話題は、今のところさっきのロキの話で留まっている。インタビューが始まって以降、例えば今後の〝青い監獄〟の在り方を問われるコトもない。あくまでも今日の試合の振り返りがしたいのかな? じゃあ俺が求められているのは、ノア・ロキ相手に告げた宣戦の再演とか?
(それとも、まさか……)
凪の一件、それに示した俺の反応を踏まえて、試合の後じゃなく試合の間に起こったコトへの言及に留めようとしてるとか? ——ホントにそんな気遣いだったら、有難いやら、情けないやら。
「〝マンシャイン・C〟戦や〝ユーヴァース〟戦で観られたお二人の連携も記憶に新しく、そのプレーを〝バスタード・ミュンヘン〟も高く評価していたとのこと! 何より、潔選手は以前のインタビューにて、『好きなサッカー選手』としてノア選手の名を挙げ、その憧れを熱く語ってくださいました! ……それだけに、今回師弟間に生じた亀裂、そして新たなライバル関係に、ファンの間では熱狂、そして動揺も広がっているようです……!」
「は、はは……なんか、スミマセン……?」
師弟だなんて、実際はそんなお綺麗なモノじゃなかった。
でも、今この瞬間でもそう捉えていて、ノアの目論見なんて二の次にして、俺たちの関係の変化を嘆いている人たちもいるのかな。——あんまり実感が湧かないな。〝新英雄大戦〟と〝BLTV〟はSNSを連日賑わせていたみたいだけど、俺が自分からその反応を視るコトはあまりなかったし。氷織たちにその内容を教えられてはイジられる、なんてやり取りをした記憶の方がずっと多い。
ただ、氷織たちがしきりに挙げていた名前は、ノアじゃなく——。
「どうですか、潔選手? 試合を終えた今、ノア選手への憧れとライバル心について、改めてのコメントがありましたら、ぜひ」
「……そう、ですね……」
耽りかけた思考は中断し、問われた内容を見つめてみる。
——ロキ同様、ノア相手にも衝動的な反抗心を覚えたコトを思い出す。とはいえ今は戦場の外なので、少し抑えて、冷静に。
「……今日までの俺は、実のところノアを理解できていたワケじゃありませんでした。幼い頃の俺は、お互いの性質の違いなんて理解しないまま、ただ〝世界一のストライカー〟の実像としての〝ノエル・ノア〟を視ていて……その愚直な幼心による憧れが、今日までずっと続いていた。〝世界一〟であるノアを、俺の〝理想〟だと無条件に見なしていた。……だけど今日の試合で、俺とノアは違うって、はっきり理解ったんです。俺は、ノアのようにはなれない。ノアのような世界一のストライカーにはなれない、って」
「……えっと……。それは……」
「あ、言い方紛らわしかったですよね! 悲観的な意味じゃないっす、断じて!」
マイクを向ける腕を僅かに下げてしまったインタビュアーに、慌てて両手のひらを振ってみせた。
それから自信を乗せた微笑をもって、力を込めた声で、回答の続きを述べていく。
「俺とノアの才能は全くの別種、なので〝世界一〟に至るための戦い方も違ったってコトです! ひたすらにノアの背を追って、自分に合わない道を進もうとすれば、いずれその『道』で要求される才能の程度差が露呈する。どうせ追いつけなくなって、張り合いたくても張り合えなくなる。——そうなって負けるくらいなら、俺にノアの道を追いたがらせる憧れなんて潔く捨てて、俺は俺の覇道を進もうと決めました。だから、今後も偉大なストライカーとして尊敬はすると思いますけど……ただ、俺の〝理想〟と見なしての信仰はしないかと」
「では、やはり潔選手はもう、ノア選手をもう目標はしない、というコトでしょうか」
「はい。ノアはずっと、神さまみたいな存在でしたけど……でも、俺の信じるべき神じゃなかったかも……って認識ですかね」
あれ? なんか結局、長々と語ってしまってるような気がする。恥ず!
ノアの話をして良いとなると、どうしても夢中になってしまうクセみたいなのがあるのかも。もう憧れはしないと決めた以上、このクセはどうにかした方が良さそうだな。
「なので、その……! 以前のインタビューでの熱弁は、ここで一度白紙にしようと思います! もちろん、ノアは世界一のストライカーです。それは誰もが……世界が認めるところだと思いますし、俺だってそう断言できます。でも、ノアを〝世界一〟のイメージに据え続けるような俺じゃ、次の舞台には進めなかった。そーいう、俺の進化のための、目標の変化の話です。だから、〝『今』世界一のストライカーは誰か〟って聴かれたらノアを挙げますけど、以前のインタビューのときみたいに〝好きなサッカー選手は誰か〟っていう個人的な感情についての問いかけをされたら……もう、挙げないようにするかも」
この結論で納得してくれますように。最後に、もうノアについてはあまり多く語らない、という意思を暗に含めたコメントまで付け加えられたのだから。
まあまあ無礼な発言に聴こえたかもしれないが、試合中のコトを考えれば今更だろ。大体、先に無礼を露わにしたのはノアの方だ。それだけで、過去に語った回答を撤回する十分な理由にはなるだろう。
そもそも、全否定してるワケでもないし。子供の頃からずっと目標としてきたから、〝世界一〟に焦がれ続ける人生を送っている。その神技を後天的に模した國神からヒントをもらって、ストライカーとしての性能を高められた。その思い出も進化も、俺をここまで連れてきてくれた欠片だ。
——そしてそれらは全部、俺の本質から派生した付属品だったってコト。その本質に気付き、幼心の憧れよりも叶えたい渇望と確信したなら、ここから先は余計な感情を傾けるコトなく線引きできる。それが俺の覇道を進む条件と割り切ってしまえば、案外寂しさは感じなかった。
(だからそろそろ、この話題終わってくれないかな……?)
ノアへの改めての宣戦だけで済むならともかく、もう自分から区切りをつけた「師弟関係」について長々と語らなければならないというのは、本当にどうかと思う。一度経た試合やそこで培った思考の振り返りになるなら良いけど、こうも続くと、何だかソコで停滞させられるような気分にもなってしまいそうだ。
「……なるほどー……! ありがとうございます! 試合中の宣戦布告はやはり確かなモノだったというコトで、潔選手から改めてのお言葉をいただきました! 〝U‐20〟以降の戦いからも、眼が離せませんね!」
どこまで理解ってくれているかは分からないが、〝世界一〟相手にやや不遜な物言いをする新星に対するほんの慄きを滲ませながら、インタビュアーは引き下がりの気配を見せ始めた。
よし、良いぞ。そっちだって分かってるだろうけど、ノアが〝U‐20〟に出ない以上、今この話題を扱い続けるのは難しいハズ。
(……かといって……)
直近の未来——〝U‐20〟そのものについて問われても、質問によっては、やっぱり困ってしまうと思う。情けなくも言葉に詰まってしまうかもしれない。俺はまだ、凪の件を——。
「では……ちなみに。次の戦いに臨むにあたり、長年の憧れに折り合いをつけた潔選手ですが、ノア選手に代わって目標とするような選手はどなたかいらっしゃるのでしょうか?」
「!」
来た! ノア中心の話題から離れられて、かつ今後の〝青い監獄〟に深く切り込んでいるワケでもない、当たり障りのない話題!
ノアに代わる、「好きなサッカー選手」。この手の質問で散々ノアを挙げ語ってきた身——BLTVの役者として公的な発言を求められるようになってからも——でありながら、そのノアをもう〝理想〟として崇めはしない、個人的な好感の対象とはしない——と翻した思考の表明が招いてくれた質問だと思うと、大袈裟にも己の話術を褒め称えてやりたくなった。
「……っと、ちょっと、少しだけ、待ってくださいね……」
と思った矢先にこの体たらくだ。結局即答できずに、答えを考え込み始めた。
仕方ないだろ、コレはコレでかなりの難問。だって、今までずっとノア一択だったから、考える必要なんて皆無だったんだ。突如その一択をやめた今、すぐに別の答えを用意しろと言われても。ノアに喰ってかかって以降、あの激闘と結末を経て間もない今に至るまで、そんなコト冷静に考えてる暇なんてなかったし。
でも、凪について言及されるよりはずっといい。だからどうにかこの思考を働かせ、最適な答えを捻り出してやる。何なら、ノアに代われるほどの人物を必ずしも見出さなきゃいけないってワケでもない。〝青い監獄〟上位層の誰かを挙げるだけでも、「好きなサッカー選手」という問いかけに嘘を返しているコトにはならないよな。
(……いや、でも……)
「捻り出す」なんて努力をするまでもなく、間に合わせたような「最適」なんかじゃなく。
——誰か、いるんじゃないか? 潔世一が挙げるに相応しい「最高」が。ノアの代わりなんてありえない存在かもしれないけど、そのノアを超えると誓った以上、「ありえない」と断言したくもなかった。
(——そうだ)
それこそ、その誓いに合致する誰か。神の地位に収まるような代役じゃなく、その神をも潰すという反逆の意志を唯一誓い合えたようなもうひとりの主役。
不平等の主に見放された俺に、真に必要だったその意志と、俺の本質を教えさえしてくれたしたような誰か。俺にとっての本当の神で、その本質の共有までできてしまえた誰か。
今の俺が、真に〝理想〟と見なした——いや、今日を迎える前からもう既に見なしていて、その〝理想〟なんて叶え超えていたかもしれない存在。幼心に信じ込んだ〝世界一〟とは違う、俺が自分の意志で〝世界一〟の資質を持つ者だと確信できた、俺の真の〝理想〟の体現者。
そして「天才」たちの踏み台となる運命を課せられた俺と同じように、アイツらの傲慢に踏み躙られていたかもしれない「秀才」。そんな負の立場からでも結ばれて、覆して。「秀才」としての自分を認められるようになった俺の眼には、「天才」たちよりますます眩しく美しく映って、誰よりも肯定せずにはいられなくて、そして愚弄されるコトを許せなかった同型。
意識的かどうかはともかく、それらの確信を抱いた瞬間から——いや、ここまでの欠片(ピース)の持ち主なら、もしかすると出逢った瞬間から求め焦がれて、この手を伸ばし続けていたかもしれない。そんな、存在——
「——いない。……『好きなサッカー選手』は……もう、いません」
声の震えを抑えようと努めるまでもなく、決然と言い放てているだろう。両の拳を固く握ったところで、試合前には整えていた爪が、掌の皮膚を破り裂いてしまうコトもない。眼の奥が熱くて痛くて苦しくて、その感覚が永遠に高まり続けていくんじゃないかと思ってしまうくらい激しさを増していくばかり。いっそまた決壊してくれたら楽なのに、それは決して許せなかった。
「だから今はとにかく、U‐20W杯に向けて、生き残った〝青い監獄〟の選手たちと……」
泣くものか。涙なんて、くれてやるものか。——クソ道化、なんかに。
その後、ヒーローインタビューは滞るコトなく終わりを迎えた。取材の片付けや早速の記事制作の打ち合わせに勤しみ始める報道陣の背と活気は眼もくれず、ただその場に立ち尽くして、両の手のひらを見つめていた。
——「置き去り」なんて、やっぱり不相応な表現だ。それは俺が固く握りしめていようとも、ひとりでに壊れて墜下していったから。砕け散ったそんなモノをを掬い上げるなんて絶対にできやしない。絶対と言い切れてしまうほどに、強烈な熱さを伴う快楽的な優越感——そして、冷たい侮蔑と悔恨、取り返しのつかない喪失感が強すぎる。
冷たさが鮮明に蘇るにつれ、その想いを向けるしかなかった俺へと返された感覚も連動的に思い出す。——鋭く叩かれ跳ね除けられるじんとした痛みに、右の手がもう一度焼かれていく。
(ク、ソ……最悪……)
最期まで、最低最悪のクソ野郎だったな。あれほど演出家気取っておきながらこの結末かよ。
望み続けた勝利をラストゴールで叶えるというこれ以上ない展開だったのに、なぜ胸の空く思いと胸に空洞を開けられる思いの区別をつけさせない? なぜ勝利を収めた俺が、快さと蔑みと——悲しみが混じり合った痛みを、引き摺らなきゃならない? ——どうして、俺はお前を失わなきゃならなかった?
『カイザー、お前にとってネスは特別か?』
なあ、なんで、そんな真似したんだよ。
あれほど英断を重ね続けてきたクセに。俺への私情だって、捨てられたクセに。
——俺とは、手を結べたクセに。
(ほんと、クソだな……)