装い(1/5ページ)

 

以下の激しいifや捏造などを含みます。

  • ザマスらの生存・改心
  • 孫悟空・ベジータ・ベジット・ゴクウブラック・未来ザマス・合体ザマスの同時存在
  • ザマス三人は現代世界でもう一度ゴワスに師事している
  • ガンマ2号の復活
  • 2号の特攻についての独自解釈
  • 男性キャラがマニキュアを使っている

 

 色気より食い気、さらに闘気。または花より団子、それ以上に闘い。そんなサイヤ人の純血を宿すベジットには大変不可解なことなのだが、第10宇宙の見習い界王神たちの美意識は高い。鏡や水面に映る己の姿に見惚れ、詩文じみた賛美の言葉を自ら紡ぐことは日常茶飯事。その美を誇示するかのように芝居がかった仕草を好み、そして戦闘中であろうとも、彼らの振る舞いは典雅であった。
 また彼らは、自身の美を磨き保つことに余念がない。そのため、第7宇宙——地球からの土産として、ヘアケアやボディケアなどの品々を選んでやると大層喜ぶ。界王神界という禁欲的で厳かな空間に身を置いている以上、自ら高品質の贅沢品を求めることは控えていた見習いの神々ではあったが、他者の厚意で譲り渡される土産の品——神にとっては人間からの献上品でもあるそれについては存分に堪能することができた。快く見守る師のゴワスも、それを咎めることはしなかった。

「また今日も随分と持ってきたのだな。良い心掛けだ。しかも、最近のものはまた一段と質が上がっている。良いぞ人間、神への敬意を高めると共に、その腕も磨いたか。褒めてつかわす」
「作ってんのはオレじゃねえからな」

 品物を神々に渡すことは、専らベジットの務めとなっていた。ポタラによって生み出された他の追随を許さない己の力と唯一対等に渡り合える好敵手——合体ザマスとの手合わせを目当てに、彼は日々第10宇宙に入り浸っている。時折地球の面々に顔を見せたかと思えば、また第10宇宙に赴く。地球と第10宇宙を行き来する回数が最も多い彼が、異文化交流の橋渡し役となることは自然な流れだった。
 そのベジットが来訪の目的とする人物である以上、受け取り手となって他の見習いふたりに品々を配ることが多いのは合体ザマスだ。愛した世界が自身ではなく人間に味方した未来での一件以降、改心して見つめ直すと志を新たにしたはいいものの、ベジットへの傲岸不遜な態度は相変わらずだった。しかしそれはベジットが望んだことでもある。遠慮無用の勝負を欲するベジットにとっては、過去を思って遜られるよりずっといいのだ。たとえ、そうして発揮される性格が少々——いやかなり面倒と感じるものだったとしても。
 とはいえ、合体ザマスがベジットに向ける眼差しにもう嫌悪や侮蔑は含まれていない。それなりに良好な関係は築けているのではないか——と、本人たちは密かに思っている。

「前に話しただろ、ブルマが去年から雇ったっていう新入り。そいつがすげえんだとよ。あ、おまえがいつも使ってるっていうシャンプーとトリートメント? はこっちの袋の中な」
「……よし、我の所望通りの品だな」渡された手提げ袋の中身を確認した合体ザマスが満足げに微笑む。「浴室に運んで良いぞ」
「自分でやれよ」

 すげなく断られても、上機嫌の合体ザマスは気にしていない。テーブルに載せられた化粧箱を開け、その中身に目を輝かせている。さながら宝石箱に見惚れているようだった。
 ベジットの来訪と同時に訪れるこの瞬間は、彼にとっての大きな楽しみの一つ。今や日常遣いするものの一部を調度することを、完全にベジットに依存するに至っていた。

「……ふむ、この小袋に入っているシャンプーは新製品だな。いいだろう、この我が直々に試す、光栄に思うがよい」
「はいはい」
「あとは……。……ん? ……人間、これはなんだ?」

 合体ザマスが取り出したのは、指ほどの大きさの容器。
 容器に対してやや大きい蓋が取り付けられた小瓶のようなそれは、赤々と艶めくルージュレッドの液体を湛えていた。

「あー……、それは……ネイル? マニキュア? とかいうやつだな。爪に塗るんだ」
「爪に? なにゆえ?」
「爪をキレイに飾って楽しむんじゃないのか? オレに聞くなよ」

 縁遠い世界の意図を求められたところでベジットは答えられない。

 ——神とはいえ一応男のはずだ。ブルマ、そいつにやるものにこんなものを入れていいのか?

 何も知らず、興味もない自分が選ぶよりいいだろうと、ベジットは神に贈る美容のための品々の選定をブルマに一任していた。だが、いくらザマスたちが髪や肌の手入れに拘っているとはいえ、マニキュアというのはまたそこから一歩踏み込んだ品のように思えた。
 いらねえならオレが預かっとくよ、とベジットが手を差し出しかけたとき、合体ザマスは愛らしい容器のキャップを開けた。
 赤色に濡れた蓋の先の刷毛部分を、左手の人差し指の爪の根本にあてがい、緩やかに指先まで伸ばす。
 そして——恍惚の表情を浮かべた。