ハッコウはもちろん、今やパルデア全土——いや、全世界に名を輝かせ、常にトレンドの一角を席捲して。あまねく人々に夢と希望を振りまくインフルエンサーとなったこのボクが。まさか、極めて個人的な理由で、誰かひとりに熱を上げるなんてね。ポケモンたちとピクニックに行くことさえ未だままならないっていうのに、もっとディープなプライベートに足を突っ込もうとしてない?
——「熱」。浮かれた頭の片隅には、その言葉の通り、「炎上」の文字までちらついている。ボクのファンはマナーがいいと思っているし、悪い噂も全然聞かない。それでも、ナンジャモの過去、ナンジャモの素顔、というのは、うん。実に魅力的な響き。このタイトルで配信を始めれば、視聴者数シビルドン登りは間違いナシ。——さすがにやらないけど。とにかく、謎に包まれたボクの素性、そしてボクに認知された最古参ファンの肩書きなんて、誰もが目をコイルにして欲しがるものなわけで。その二つを手にしている人物が明らかになれば、その「彼」がみんなの羨望の対象になってしまうのは、雨の中かみなりが落ちるくらいに自然な流れ。ボクはボクのファンを信じているけれど、向こうが良くも悪くも注目を浴びてしまうことだけは、避けられないんじゃないかな。彼の仕事にも、迷惑をかけてしまうかも。
「……ひょっとして、ボクも危なかったり?」
ボクの人気は説明するまでもないけど、彼にだって同じようなことは言える。かつては世界を圧倒した天才少年、今はパルデア最強と名高いジムリーダー。おまけに容姿も端麗ときた。この学園の生徒が彼の話に花を咲かせていたところも、すれ違いざまに耳にした。ここで、彼は現役時代からボクの動画を観ていて、支えにしていた——改めて自分で思うとすごいことだし、やっぱり恥ずかしいなぁ!? ——ということが彼を慕う人たちに知られてしまえば、そのとき羨ましがられるのはボクの方だ。
「むむ、ハイリスクハイリターン……」
できたばかり、というかボクが知ったばかりのボクたちの関係が世間にバレることも、それが引き起こしかねない「炎上」も、何としてでも避けたい。ストリーマーでい続けたいボクのために、お互いの立場のために。そして、ボクを観てくれた、彼のために。
というわけで、隠密な行動あるのみだ。いつものプライベートと一緒。一緒どころか、ピクニックに行くよりも、ジムリの同僚とお話しをする方が、達成の難易度自体は低い気がしない!? いけるいける! ブルベリ生徒氏の方がまだもっと難しいミッションこなしてるって!
「……ハイリターン、か……」
思えば、この地位を得るまでも、得た後も、色んなものを諦めてきた。ピクニックみたいな、ささやかだけど楽しかった時間。流行や需要に敏感になることと引き換えの、本当の「ボク」らしい配信。リスクに対しても、随分と敏感になった。数字が取れない、もしくは減る可能性のあるものは「リスク」と捉えて、徹底的に避けてきた。
そのボクが、今はリスクを承知で、リターンを得ようとしている。ただひとりのファンと話をするだけという「リターン」の内容にも、リスクを遠ざけずにそれを掻い潜ろうとしているボク自身にも、驚いている。ボクって、まだこんなことできたんだ。
『昔のほうが体張ってて好きだったかな』
「……だとしたら、キミのおかげかもね」
キミがそう言ってくれたから、昔の自分を思い出せた。キミのためなら、少しくらい戻ってもいいと思えている。ファンの要望に応えられるよう努めるのは配信者の使命! というか、ちょっとそうするだけで好感度はシビルドン登りになるんだから、応えない手は——と自分に言い訳をすることもできるけど、本当はもっと単純で、いつものような打算は、そこにはない。
ボクがただ、少しだけでもキミに相応しいボクになりたがっているだけ。
とはいえ、たったの一言で路線変更を完全に変更できるほど、今のボクも軽い女じゃない——というか普通に難しい——ので。愚直に彼のところに向かうんじゃなく、まずは頼もしい協力者となってくれそうな人のところへ行こうと思う。人を使うことを覚えたとか、小狡くなったとかじゃなくて、賢くなったとか、成長したと言ってもらおう。配信と一緒で、きっと下準備は大切なのだ。
——それとも、ただ会いに行くのはリスク云々以前にまだ恥ずかしいから、とか?
「ほ~んと……配信っていいよねぇ……。自動フィルターで肌色誤魔化せるもん……」
つい先ほどの雑談配信で、詳細は伏せつつ「彼」のことを話したとき。頬がものすごく熱くて、きっと真っ赤になってると思っていた。ナンジャモの本気照れ顔という、切り札にも等しい威力を秘めたものを無計画に配信するところだった。
『変な挨拶やり出す前から知ってる』
「うう~~~~…………っ!」
傍らでのんきに過ごしていたハラバリーを思いっきり抱き締める。当のハラバリーは喜んでくれているので良しとしたい。
あの言葉を、あの笑顔を思い返すだけで、こうやって悶えてしまう。嬉しいのに恥ずかしすぎる、恥ずかしいのに嬉しすぎる、そんな気持ちが収まりきらなくなる。
彼ともっと話すことができたら、この気持ちも落ち着くかな。できればそうなってほしい。何度も思い出したい記憶なのに、その度に喚いていたら大変だから。
「おはこんハロチャオ~! アオイ氏はいるかね~!?」
お馴染みの挨拶とともにリーグ部部室に入り、ボクに手を振ってくれる部員たちに手を振り返しながら——室内を見渡す。
(……よかった! グルーシャ氏はいないっぽい!)
いたらいたで、ダメとか、そういうわけじゃないけど。そうなるとボクはハラバリーを括って彼本人に突撃しなければいけなくなる。今それをやったら、絶対に照れてしまう自信があった。だから、今は外してくれていた方が、ボクの有利に進むのだ。
「ナンジャモさん?」
「お、いたいた、アオイ氏~!」
部室のパソコンを操作していたらしい彼女がこちらを振り返る。いやぁ、お仕事ご苦労サマ。でも、これからボクのために、もう一仕事頼まれてもらおう。大丈夫、八つのジムに視察に行くよりは、きっと手間じゃないから。
「実はさぁ、アオイ氏に折り入って頼みたいことがあって……」
ボクが業務連絡のために来たのだと思ったんだろう。ボクのファンでもある部員たちは、それぞれ自分の活動へと戻っていく。パソコンから離れてこちらに近付くアオイ氏にボクも駆け寄った。
「特別講師ナンジャモの~、今後のスケジュールのことなんだけどね? ……」
ここから先は耳打ち。みんなもうこちらのことは気にしていないけど、万が一聞かれてしまったらマズいと思った。「今後また、グルーシャ氏と一緒に呼んでほしい」なんて。
——おおお、この雰囲気、何だか懐かしいな。自分の秘密がかかった内緒話でしか味わえない緊張と、それゆえの高揚。昔、友人たちと恋バナをしたとき以来じゃないかな? 昔のボクは聞き専だったけどね。——いや、今のこれは別に、恋バナじゃないけど!
「……そう、ですか……」
「? アオイ氏?」
頼み事を話し終えて顔を離せば、すごく複雑そうな、困ったような表情をしているアオイ氏がいた。
「もしかして難しい? スケジュール合ってないとかー?」
「いえ、スケジュール的には……問題ないかなとは思うんですけど……」
「?」
どうにも歯切れが悪い。一つ問い詰めてみるか、それとも、言いにくそうにしている彼女の気持ちを汲み取って、ノータッチの気遣いを見せて引き下がるか。
——彼の言葉と、そして昔のボクに背中を押されて、踏み込んで尋ねようと思ったとき。そうする前に、今度はアオイ氏がボクに一歩近付いた。その意図を察して、片耳を彼女へと近付ける。
「実は……先ほどグルーシャさんに言われていまして……」
「え……っ!? 何何!?」
自分の心臓が鳴る音を、はっきりと感じた。言い淀むアオイ氏の次の言葉が待ちきれないけど、もう少しだけ待ってほしいような、心の準備をさせてほしいような。実際にはそんな要望をしている暇もなくて、頬を緩めたまま耳を傾けている。
「……もう、自分とナンジャモさんを同時には呼ばないようにと」
「なんで~~~~~~~~っ!?」
高められた気持ちが、思わぬ打撃を受けて粉々になった。
誰かと仲良くするって、こんなに難しいことだっけ? ボクのプライベートに安寧はないのか——。
ふらつく身体に合わせ、コイルの髪飾りを頭上でくるくると回す。
実際、こんらんしていた。コラボNGどころかリアルの顔合わせNGときた。こんなことある?
「な、なんで……? アオイ氏ぃ……」
拒絶されるなんて思っていなかった。いくら相手が絶対零度トリックの最強ジムリでも、ボクのファンだっていうなら。っていうか、ファンに拒まれるって何事なんじゃ!?
グルーシャ氏は、憧れの星は遠くで輝いていてほしい、って思うタイプとはまた違うような。もしもそうだとしたら、ボクにあんなこと——ずっと前から観てくれていたこととか、路線変更についてのご意見とか——直接言わないよね。だとすると——。
「……もう、余計なことを言いたくない、と」
「ああ~~~~! やっぱりそういう~~~~!」
ふらついたまま倒れかける。テラスタルしたポケモンがひんしになるとき、破片とともに崩れていくように。
微かに危惧していたことが、当たってしまった。きっと彼は、「めんどい古参ファン」と言われたことを気にして、彼なりに身を引こうとしているんだ。
——グルーシャ氏のバカ~~~~! めんどい古参ファンがついて嬉しくない配信者なんているか~~! それこそが配信者の箔! ——路線変更後に一躍有名になったボクには、絶対にないと思っていたものだったのに! あと、こんな回りくどい褒め言葉で会話を打ち切ったボクのバカ~! 嬉しくなって部室を出て、過去の動画のコメントを見返して、喜びに浸るのも良かったけど、それよりもっと会話をするべきだった! ボクが打った悪手と、「めんどい」彼との相性が悪かった。
反省ばかりしていても仕方ない。ここから、どうにかして巻き返さないと。
「アオイ氏~……。グルーシャ氏は、今……」
「現在は講義に。その後はそのまま、パルデアにお帰りになるそうですよ」
「ゲゲ……ッ!」
思っていた以上にピンチ! 直接会って説得する、というのは不可能なわけだ。ボクは今日一日こっちに泊まる予定だから、同じ飛行機で帰ることもできないし。
となると、SNSやメッセージアプリでコンタクトを取る? ——無理。ナッペ山ジムの公式SNSならあるけど、グルーシャ氏個人のSNSアカウントは公開されていないし、あるかどうかも分からない。メッセージアプリの方だって、一度もコラボをしたことのないボクたち個人では繋がっていない。せいぜい、ジムリ八人が集ったグループチャットに所属しているだけ。
「うう……」
もどかしい。ボクの最古参ファンで、ボクと同じジムリ。その彼との繋がりが、こんなにも乏しいなんて。
彼とまともに話せたのは、さっきこの部室で顔を合わせた一回だけ。特別講師としてのスケジュールが偶然重なったことで生まれた接点は、その重なりさえ封じられてしまえば、二度目のないものとなってしまう。こんなにも大事な存在が近くにいたと、ボクに気付かせておきながら。
(諦めたく、ないな……)
かつてのボクを救い上げた、視聴者数ひとつの増加。それをくれたひとと、やっと、やっと出会えたんだ。
アカデミーふうに言うなら、「宝物」ってやつ? いや、ちょっと語弊があるかも。視聴者の一人一人、そして彼ら全てがくれる、ボクの人気が可視化された数字こそが、ボクの宝物。そういう意味では、彼はボクにとって、最初の宝物だ。そして、百万を超える他の宝に埋もれても、なお輝いている唯一のもの、ってところかな。とにかく、そんなたったひとつの存在との縁を、簡単には手放せない。手放したくない。
——あがいてみますか。キミはきっと、昔のボクの、そういうところが好きだったんでしょ? 呆れるくらい荒削りで、諦め悪くて愚直なところ。絶対無理でしょって企画を立てては、懲りもせず挑戦していたよね。
「ニッシッシ……無理じゃないんだよねぇ、これが……!」
スマホロトムを操作して、メッセージアプリを立ち上げ、ジムリ用のグループチャット画面を開く。配信以外で彼とボクを唯一繋ぐこれに、勝算がある。グループ内で直接話しかけるなんて、色々と無謀すぎることをするつもりはない。何なら、このアプリ内で話す必要だってないのだ。
「ナンジャモさん……?」混乱と消沈に陥っていたかと思いきや、突如勝利の笑みを浮かべてスマホを弄り出したボクを、アオイ氏が訝しむ。
「ニシシ……! 聞くがよいアオイ氏、ボクたちパルデアジムリ組はね~、来週末にちょっとしたパーティー……お食事会を控えているのだ! だから、そのあたりは特別講師に来れないよん」
「みたいですね。お話は既に伺ってますので、ご心配なく」
「おっ、話が早い! もう毎年恒例みたいになっててさ! 去年はハイダイ氏のお店で~、一昨年は宝食堂だったかな? 今年はアオイ氏のおかげでイッシュがアツいから、イッシュのお店とか探してもいいんじゃないか~って話も出てるんだよねえ……」
チャット画面を少し遡れば、つい先日交わしたそんなやり取りが思い出せる。いくつか案は出たけれど、決まることはなかったから、後日改めての多数決になりそうだ。配信にもかかわってくるから、会場がどうなるかは、ボク的にもかなり重要だ。
でも、今見たいのはこっち。画面のさらに上の方に設置されている、そもそも会を開催するか否かを決めるものでもある、出欠確認のアンケート。ボクの回答は毎年〇だ。会自体が配信やSNSにアップする写真の美味しいネタになるのはもちろん、こういうところで人脈を強化して、コラボ配信に繋げるのだ。公開されている結果を見れば分かるけど、みんなも積極的に参加してくれているから、ボクの目的も大いに果たせる非常にありがたい集まりで——。
「……ですよねー!! 知ってた!」
また、崩れ落ちる勢いで落胆した。髪飾り型コイルが再び宙を舞う。突然叫んでしまったことで、アオイ氏が驚いて肩を震わせた。
例年通り、出席率は良好。——ただひとりを除いては、であることも例年通り。七つの○が並ぶ中、唯一×の印を添えた人物が、よりにもよって、件の彼だ。
「グルーシャ氏……。キミだけだよ、毎年来ないの……」
忙しいのか、それとも単に来たくないのか。何となーく、後者なんじゃと思いながら、そういう人もいるよね、と思って過ごしてきた。今も、仕方のなさを感じているけど——少し、寂しくもなった。毎年のことだと分かっているはずなのに、どうしてこの集まりに頼ろうと思ってしまったんだろう。どうして、こんな気持ちになるんだろう。
「あーあ……。食事会がリーグの仕事だったら良かったのに」
「仕事で食事するのってどうなんです……? 緊張して食事どころじゃなくなりません……?」
「ボクも自分で言っててそう思った」
だけど、もうこの際何でもいい。たった一度でも、彼と会って話をする機会を得られたら。その一度で誤解を解くことができれば、後はどうにでもなるはずだ。それこそ、またボクと一緒にブルベリに招待されることだって、許してもらえればいい。それに、ジムリのみんな——アオキ氏とグルーシャ氏以外——は明るいから、緊張なんてしないでしょ。だから、今回だけでもこの食事会が、出席推奨の仕事の場になってくれたら——。
「……できるのでは?」
でんきタイプテラスタルの豆電球が、ボクに灯ったような気分。一見難しそうな気もするけど、実は簡単なんじゃ? って思えてくる。
「ナンジャモさん?」
「……トップの予定をエレキネット! っていうのはどうじゃ!?」
「……まさか」
「ニッシッシ、そのまさか! 仕事……ってわけじゃないけど、今回の食事会に、トップと、それから四天王の人たちも招待しちゃおうってコト! フヒヒ、名案の予感……!」
——リーグ上層中の上層の人たちが来るなら、さすがのグルーシャ氏も出席せざるを得ないでしょ!
ついでに、ボクもトップや四天王の写真や映像を撮らせてもらうことができればバズり間違いナシ! そしてそれを切っかけに、ゆくゆくはコラボ配信の実現なんてことも!? ヤッバ! 夢広がる~! ——ちょっと待って、こっちがついで!? 何ともボクらしくないけど、まあいっか!
「本気ですか……!?」
「もちろん、マジマジ~! んじゃもーさっそく、ジムリたちに提案をば……」
狼狽えるアオイ氏をよそに、グループへのメッセージ送信欄に速やかに文字を打ち込んでいく。相談は早ければ早い方がいい。
実は、この提案ができるのもアオイ氏のおかげだ。ブルベリの特別講師を請け負う中で、四天王の人らやトップとかかわる機会も増えたことだし、ここらへんで一度お誘いしてみないかね~? と、なかなかに説得力のある理由を付けられるのだ。
「……お、レス早っ! ……おお~……! みんな賛成してくれてるじゃん!」
コイルの瞳を潤ませて感激を示す。向こうと元々交流があった人、向こうに関心を寄せていた人、ブルベリ特別講師への参加を経て、向こうと接点を持った人。そんな人たちが集まっていたから、どんどんボクの望み通りに話が進んでいく。いいぞいいぞ! 返信をくれている人の数より「既読」の数の方が多いけど、静観に徹しているのはアオキ氏かな? ——それとも、グルーシャ氏? どちらにせよ、沈黙は同意と受け取るぞ!
「賛成多数なのはいいことですし、オモダカさんたちも……誘われたら嬉しい、と思いますけど。……でも、本当に上手くいくでしょうか。予定……」
「そ~う。そこなんだよねえ」
「トップの予定をエレキネット」とは、我ながらよく言えたもので。ボクたちジムリも各々忙しい日々を送っているけれど、トップの多忙っぷりはそのボクたちをも遥かに凌ぐとか。前にも一度、トップや四天王を誘おう、という流れになったことはあったけど、トップの予定に空きがなくて頓挫したのだ。結局のところ、その最難関がどうにかならなければ、ボクの目論見は実現しない。
でも、今回は違う。ボクは何の当てもなく、この提案をしたわけじゃない。
「時に、アオイ氏ー?」
「?」
「今のリーグ本部……トップや四天王の人たちって、忙しいと思う?」
「そ……っ、そんなこと、何でわたしが……」
「またまた~! ボクは知ってるぞ! アオイ氏はトップのお仕事を代行できるくらい、リーグからら厚~い信頼を得ている人物だってコト!」今まではトップが直々にやっていたジムの視察を、まだ学生ながら任せられるくらいなんだから。「そのアオイ氏なら、リーグ本部の状況、ある程度推測できるんじゃ!?」
アオイ氏が目を見開いて押し黙る。これは勝負あったな。すごいぞナンジャモ、賢いぞ! 第一のファンとバズりのためなら、ひらめき豆電球してみせるとも!
「……例年がどれくらいかは、わたしは分からない、ですけど。……でも、ちょっと余裕はあるのかも……って感じはします。もしお忙しいようでしたら、何度も特別講師をお願いすることはできませんし」
「ニッシッシ……! そう!! そうだよねえ! ボクの望み通りの答えをありがとだぞ~~!」
希望的観測の的中に思わず飛び跳ねた。その答えはそのまま、ジムリ界隈に発信しよう。「イッシュのブルベリにまで来れるくらいなんだし、今年はトップたちもけっこう時間あるんでない?」ってボクが言うのと、「……って、アオイ氏が言ってたよん」と付け加えるのとでは、説得力がコリンクとレントラーくらい違う。
——決して、ボクが信頼されてないってわけじゃなくて。アオイ氏がそれだけすごい子だって、みんな分かってるってことだ。彼女が視察に来たとき、「ジムリ界隈でも激バズな話題の中心」と話したけど、あれは本当。その話の輪にグルーシャ氏が加わったことはないけど、でも、グルーシャ氏だって彼女にバッジを渡したわけだし、納得してくれるんじゃないかな? ま、グルーシャ氏は全然発言しないから、普通に進めちゃうんだけどね。
そして、最後の一手。アオイ氏とボクの推測の正しさを、この人に証明してもらおう。
『アオキ氏的にはどう? トップや四天王の人たち、時間取れると思う?』
チャンプルタウンジムのリーダーにして、リーグの営業部所属——どころか、なんと四天王の一角。トップたちの事情に関しては、どう考えたって彼が一番詳しい。彼さえ「はい」と言ってくれれば、トップや四天王を誘えるはず。それでも一度アオイ氏を経由したのは、アオキ氏がより確実に「はい」と言えるようにするためだ。アオキ氏の上司呼んで~って、正面から頼んでもかわされるかもしれないじゃん?
『恐らく、不可能ではないかと』
「……やった~~!!」
数分後に届いた、深い逡巡も感じられる遠回しな「はい」に、心からの歓声を上げた。
そこから先は、トップたちも誘うということで固まって。言い出しっぺのボクも主導しながら計画を練って——企画とか立てることには慣れているから、実はこういうときに頼れるナンジャモなのだ——、アオキ氏やアオイ氏にも協力してもらいながら、トップたちとの交渉や調整を進めていった。
『ろうほ~う! トップたち、来れるってさ!』
ジムリのみんなに、そう報告できたときの達成感といったら! 企画の成功なんて、いつもしていることなのに。そのいつも以上に、ボク自身で色々考えていたから? 配信の企画は、集客力のあるゲストさえ確保できれば何とかなる、みたいなところもあるし。
「……ゲスト確保でどうにかするってところは、ある意味普段と変わりなかったり……?」
トップたちの招待だって、もちろん大事なことだ。そして目論見通り、部分的にとはいえ、ボクは配信の許可もいただくことができた! 絶対バズる、これは行くっきゃない。
だけど、彼女ら大物ゲストの存在は、ボクのもう一つの目的のための、最初の手段にもなっていた。
「……ニッシッシ……!」
その目的に向かって前進したということを、チャット画面を遡って、何度も確かめている。
遡った先にあるのは、出欠確認のアンケート。今は、八つの○が並んでいる。——彼が、自分の回答を変えたからだ。
「やっと、会える……!」
ずっと近くにいたっていうのに、些細なすれ違いで遠ざかってしまった。でも、それもここまでだ。かつてのボクを見守ってくれていたキミから目を背けるなんて、したくないから。
キミが大会前に観てくれたらしい頃のボクは、コラボ配信なんてしていなかった。できるような立場じゃなかった。だから、トップたちの力を使ってキミを招いたボクのやり方は、今のドンナモンジャTVに似ていて、キミのお気には召さないかも。それでも、キミを諦められなくて、ボクなりに考えて、頑張ったんだ。だから少しは、胸を張ってキミに会えたらいいな。キミに、認めてもらえたらいいな。