夜が明けるまで、あと二時間。まだ、人体を感知したセンサーが、道案内をするように電灯を点してくれる時間帯だ。すれ違う夜間警備役の兵士たちと適当に挨拶を交わしながら、目的の部屋を、本棚を目指す。
『……おまえの力になれなかった』
そう言った1号と同じような悔しさを、ボクも抱えたままだった。
思いの丈をぶつけるくらいのつもりで、がむしゃらに願って、そして和解して。穏やかな雰囲気で閉幕したと思われた真夜中の感想発表会は、実のところ、ボクが打ち出した議題を一切解決させなかった。
『……オレは、あの結末を責められない。彼らの決断は……理解できる』
ギリ、と、強く、強く歯噛みする。本を持っていない方の手が、拳の形を作る。軍靴が打ち鳴らす足音が大きくなる。
——許せない。認めない。その思いは、未だボクの中に強烈な感情として留まっていた。もう、消えない炎になっていた。
あんな結末がボクたちの間に訪れることは、ボクが許さない。だから、この名作の主役を担った男より、ずっと立派なヒーローになってみせる。
1号は、ボク自身の人格や心を失くせとは言わないと言ってくれた。ありがたく、その言葉の通りにさせてもらう。その上で、常に楽観的なあまり、詰めが甘くなるようじゃダメなんだ。ボクはボクのまま、変わってみせる。すぐには難しくても、諦めるものか。——そして。
いつの間にか、目的地に辿り着いていた。
整頓された本棚の中に空いた隙間を陣取るように、斜めに傾いた一冊があった。それを片手で真っ直ぐに立たせてやる。そうして直方体の形になった空洞を、もう片手に持った本で埋めた。
もう、二度と取り出すことはないだろう。こいつには色々と振り回されてしまった。この感情も作家の思う壺であるのかもしれないと思うと、それはそれで腹が立つな。——でも、それと同時に感謝もしている。こいつに出会って、備え付けの知識で満足せず、この目でその悲劇を見届けたから、気付けたものがあった。目標ができた。
その思いを込めて、背表紙を人差し指でなぞる。登場人物たちに思いを馳せる。そして、本棚の奥の僅かな隙間も潰すように、もう一度押し込んだ。
いくらボクでも、この中で生き、そして果てていった彼らのことを助けることはできない。でも、ボク自身の、愛するひとのことだけは。
(……1号)
立派なヒーローになって、そして——1号のことを守ってみせる。「彼ら」のようにはならないし、させない。ボクがいる限り——いや、たとえボクがいなくなったとしても、絶対に、死なせはしない。どんな手を使ってでも。
告白とかするのは、そんなヒーローになれてからだな。