Novel/BLL-潔カイ

【サンプル】再壊/2-1
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「『イングランド』リーグの試合、最近けっこう好きで、よく観てたんだ。スピード感のある試合展開で、ガンガン点奪り合ってく感じが見応えあってさ。……でも、〝新英雄対戦〟での四試合を経て……。俺というフットボーラーは、『イングランド』の哲学とは対極的に進化したって感じてもいる。実際に対戦したマンシャイン・Cもそうだったけど、フィジカル至上主義なトコあるじゃん」
「『イングランド』全体にそーゆー理念が敷かれている……肉弾戦を華とする興行性エンタメの優劣こそが、勝敗に直結する展開となりがち……って偏見イメージは、否定しないでおこう。だが、そんな国とお前の、この二極の隔たりが気がかりだと言うのなら……お前宛てにアーセナリの試合チケットが手配されたのもクソ頷ける」
「え、マジ……!? んなコト言われたら俄然気になんだけど……! 俺のプレースタイルに通ずる哲学掲げて、『イングランド』リーグに挑んでるチーム……とは限らねーか。第三極かもしれねぇし。でもとにかく、まだ俺の知らない……俺の脳ミソイメージに入ってないサッカーが、そこにあるってコトだろ……!」

「クッソ惜しい! アレでも入らないんだな……! ……やっぱスゲェな、あの九番……! アイツも〝超越視界〟使ってんのかな……!?」
「恐らくな。だが……それだけじゃねぇな。九番アイツ……向こうの十番のクセをよく見抜いてやがる。十番(敵)の最も得意とするプレー、性能パフォーマンスを最大限に発揮できる条件を分かっているから……十番の欲しがる条件ソレ演出し錯覚させて、罠にかけてんだろ。……『ドイツこっち』のリーグにいた頃から、そーゆー選手ヤツだった」
「あ……! 確かにそうだよな! 俺も気になってた、九番の読みが決まる瞬間って、毎回十番ソイツ絡んでるから……! てか知ってたのかよ!」
「まーな。……こーなると、あとは十番向こうの個人技がどこまで通用するか……」
「……新しい戦い方を見つけられるか、だよな。……あのさ、俺だったら、だけど……!」

 絵心さんから潔世一おれ宛に届いたチケットの半分を独断で行使し、俺はカイザーをサッカー周遊の旅に誘い連れ出した。しかし現地に着いてからというもの、すっかりカイザーの方が先導・解説ツアーガイド役に収まりつつある。
 俺がカイザーから色々と学びたくて締結したという、この第二の〝契約〟の性質を思えば妥当な関係かもしれないが、知識や経験の差をひしと感じても悔しくもなる。
(——ま、クソ適任だろ)
 悔しさもまた、俺に進化を望ませる刺激へと変わる。俺だってもっとサッカーを知ってやるって、競争心を煽られた脳細胞がより貪欲になっていくのが分かる。
 それに、何より。

「——って、思ったんだけど……! ……いやでも、この時点で大分再現性不確実な気がしてきた……! イイトコまでいってる気がすんのに……!」
「……。……いいや。言えるトコまでクソ続けろ、世一。俺でさえ、似たような戦法コトをやった覚えコトがあるから……恐らく、可能いける
「……! ——ホントかよ、それ……!!」
「ああ。再現については俺も答えられんが……代わりに、中盤にいるアイツらが、次のプレーで手がかりヒントくらいはちらつかせてくれそうだ」

 眼下で繰り広げられる世界最高棒の戦いから伝播する熱と価値観イメージによって、新しくなってく潔世一じぶんが、肯定される。
 俺が次々と望んでしまう未来の潔世一じぶんは、決して空想で終わるような存在なんかじゃない。描く夢は泡沫にならず、現実に括り付けられ、確立されていく。
 この観客席とは近いようで隔たれた、夢の聖地フィールドを今まさに駆ける選手スターたちじゃなく——手を伸ばせば届く距離潔世一のすぐ隣で、潔世一おれと同じ眼と脳で戦場フィールドを視ている存在からしか、この感覚は得られない。
 激闘を目の当たりにした興奮のまま、脳の中身を打ち明ける度に。——カイザーを連れてきて正解だったよかったという確信も重ねていけた。だから、俺はまた、その選択をした潔世一おれを信じられた。

「あ〰️〰️ッ、——サッカー楽しい! サッカー面白ぇ! 試合激アツなのはもちろんなんだけどさぁ……! ——それ視て、潔世一おれのサッカーまでもが更新されてるってカンジが——!」
「————」
「……何だよ。……お前も引いた?」
 カイザーは俺の言った思考コト全てに答えたワケじゃなかった。驚く要素がまるで分からないが眼を丸くして絶句したり、こちらを探るように眼を細めて押し黙ったり。
 その反応を引き出してしまっては、一時的に従えてる宿敵の前ではしゃぎすぎだろとさすがに反省する瞬間もあった。嘘つき兄やんバニー相手にだって、自分のコト好き勝手に語って失敗したばかりだったし。
 カイザーに気を遣いたいとは思わなかったけれど、宿敵の面前で浮かれた一人芝居してんのはカイザーがどう思うか以前に、俺がなんかじゃん。
「引いてない。少し、考え込んでただけだ。……。……自分を、更新する感覚を……。感じていて、良いんだな、と……」
「!? い、良いに決まってんだろ! 強くなるってそーゆーコトだし……俺は、それが気持ちいいって思うし……」
 思わず狼狽えた。——ソコで迷うのかよ? って内容コトだったから。
 快感を快感として認識することの是非良し悪しを問われてる感じ? ソコ突っ込まれても、っていう。
「その快感は……誰もが覚えて良いモノだと思うか? ……世一おまえは〝そう〟だとしても、クソ別人・・・・がお前と同じ快感を追求しようとしたら……。別人ソイツは所詮、クソ分不相応にも、御伽話の登場人物をいたずらに真似ているだけに過ぎなくなる、という可能性は?」
「え、ぁ……。……確かに、エゴって千差万別だよな。一考の余地あるかのも、ソレ……。……。……だけど、さ」
 申し訳程度のぼかした表現遣ってるけど。——カイザーが、自分自身のコトについて迷ってるのは理解ったから。
「少なくともお前は、この件において『別人』じゃねぇだろ。それだけは、今ココで断言できる」

(中略)

「ハ? 片道三時間の鉄道乗って、マドリードで観光? バルセロナここじゃなく? ……何が目当てだ? バルチャの対戦相手チコリードに感化されたか?」
「けっこう時間かかるんだな……。いや、チコリードも良かったけどさ。レ・アールのホームベルナベウ・スタジアムを……一目でいいから見てみたいなーと……」
「……。世一にはまだ関係の無い場所のハズだが?」
「『まだ』だろ! そりゃあ俺はどう転んでも『ドイツ』だけどさ、その先はどーなるか分かんねぇじゃん。だから各国を巡れるこの機会で、後学のためにも……! てか、俺よりお前の方が乗り気じゃないの、問題だからな」
「俺はただのクソ御付き。元々世一おまえとお前の意欲のために組まれてるツアーだろうが。……だが、まぁ……敵情視察ってコトなら、多少は唆るか……」
「敵って……。凛にオファーいったコトまだ気にしてんのかよ……。——いや、俺にとってもそれでいーかも。潔世一秀才より糸師凛天才を選んだのがレ・アールの哲学っていうなら、俺にとっても超えるべきチームだ」
「……バルセロナここ戻るの夜になるぞ。明日の出発遅らせるか?」
「明日……。……ああ、それでいい。行こうぜ」

「全部の展示をじっくり観るのはさすがに無理か……。けど、写真でしか見たコトない絵とか彫刻を生で一目視れただけでも感動した……! しかもフランスだけじゃなくて、『モナリザ』みたいに、他の国の作品……エジプトのスフィンクスまであって……! 世界中の傑作が同じ場所に集ってて、歴史の流れや進化の過程や個性まで見えてくる感じがすっげぇ良かった! マジ刺激的!」
「……そう、思うか……。……お前、案外こーゆーの好む性質タイプか」
「ああ、実は美術、割と好きな方で……つっても全然素人だけど。お前の方こそすげぇ詳しいじゃん。展示観ながらお前と話してるとき、完全にプロのガイド聴いてる気分だったもん。なぁ、まだ時間あるし、もう一箇所くらい回りたい。折角だから、この気分のまま、関連性のあるトコに……。そうだ、ノートルダム大聖堂! あのデケぇ戴冠式の絵の舞台なんだろ? 同じパリにあるなら、直接行ってみたい!」
「——。……世一……クソ残念だが、かの戴冠式場は半月前に燃えてしまった。……再建までは数年かかるだろうな」
「え、ぁ……!? ……そう、なのか……そんな……」
「……どこかには行きたい、ってんなら。代わり……とは言わんが——」

 せっかく欧州にまで来ているんだ。試合観戦のついでにちょい観光したい——という、俺のエゴ未満のささやかな意欲。
 そのプランに、カイザーは意外とノッてくれた。
 あそこに行きたい、アレを観てみたい、と発案するのは毎回俺でも、俺のその要望に無茶があった場合、調整したスケジュールや関連性の高い代替案を提示してくれた。美術館や史跡に連れて行けば、ちょっと話振るだけで解説役ガイドをこなす。露店に並ぶ商品を買おうとすれば、店主——俺が邦人で子どもで浮かれた観光客だって一目で分かるせいか、足元見た価格を提示して来たらしい——と交渉してくれた。

「クソ出過ぎた真似をしてしまったか? 新英雄ネオ・エゴイスト様ともあろう者が、あんなクソ店なんかに見縊られるザマ、見るに堪えなくてな」
「いや、全然……! 俺じゃ、騙されてるってコトにも気付けなかったし……!」
「……お前もお前だ。もっと毅然とした振る舞いをしようとも……その権利が自分にあるとも思わねぇのか? 俺を殺そうとしてるときの、支配者然としたお前はどこへ行った?」
「俺が誰彼構わず殺意抱いてたらかなり問題だろ……」
「……なるほど、確かにな。ヤツはクソ悪徳店主であろうとも立派なニンゲンだ。このクソ物に向けるモノと同等の蔑みや嘲りを、ニンゲンに向けるハズねぇか……」
「いや、そーゆー意味じゃ——! ——ん? あれ……? そーゆー意味、でいいのか……? 俺、お前のコト嫌いだし……。こんなにも誰かのコト嫌いって思ったの、多分お前が初めてだし……。……ん……?」
「……」
 宿敵、それも戦場フィールドを下りてもなお嫌悪したほどの相手に助けられるっていう極めて特異な状況のせいか、時々脳がひとりでに混乱し言語化機能がバグってしまう、おかしな一幕もあった。
 ——特異でもないだろと思ってしまうのも異常バグなんだろうか。だって、俺は潔を助けられる俺が利用できる一番の存在としてカイザーを選んでる。今も、あのときも。
 あのときだって、カイザーはただ俺の意のまま戦ったんじゃなく、俺の想定や期待以上の戦果を上げていた——んだけどな。